株は債券より割安か — この問いに直接答える指標
「今の株式市場は割安なのか」を最も直接的に測る方法は、株の益利回り(PERの逆数)を無リスク金利と比べることだ。益利回り6%の株を買うのと、日本10年国債利回り2.4%を買うのとでは、前者が3.6ポイント高いリターン期待を持っていることになる。この差が大きいほど株は債券より相対的に割安、という考え方である。
米国ではこの手法が「Fedモデル」と呼ばれ、米10年債利回りとS&P500の益利回りを比べるのが定番だ。では日本株に応用するとき、比較相手は何を使うべきか。多くの解説は米10年債を使いがちだが、これは誤りである。日本株の割安度は日本10年国債(JGB10Y)と比べるのが正しい。為替リスクを無視して通貨の異なる金利で比較すると判定が崩れるからだ。
この記事では益利回りの計算方法、Fedモデルの理論的背景、日本10年国債を使うべき理由、現在のJGB利回り水準での実践的な読み方まで、日本株投資家向けに整理する。
益利回りとは何か — PERの逆数を%で表したもの
計算式と意味
株式益利回り(Earnings Yield、略称E/P)とは、1株当たり純利益を株価で割ったものを百分率で表した数字である。
益利回り(%) = 1株当たり純利益 ÷ 株価 × 100 = 1 / PER × 100
例えばPERが15倍なら益利回りは1÷15×100=約6.67%、PERが25倍なら益利回りは4.0%、PERが10倍なら10.0%となる。PERが低いほど益利回りは高く、「高い益利回り=割安」の関係が成り立つ。
PERと同じ情報を持つのに、なぜ逆数を使うのか
答えはシンプルで、金利と同じ単位で比較できるからだ。PERは「株価は利益の何倍か」で単位は「倍」。金利は「何%か」で単位は「%」。このままでは直接比べられない。益利回りに直せば両方とも%で、同じ物差しに乗る。
債券と株式を同じテーブルに並べて比較する際に必須の加工である、と考えればよい。
なぜ無リスク金利と比べるのか — Fedモデルの理論
Fedモデルの基本コンセプト
「Fedモデル」とは、米連邦準備制度(Fed)が1997年の議会報告書で言及したとされる株式バリュエーション手法である。正式に定式化された理論ではないが、以下の直感的な根拠に基づく。
- 投資家は株式と債券のどちらに資金を置くか選択する
- 両者が同じリターン期待なら投資家はリスクの低い債券を選ぶはず
- 株式が選ばれるには、債券利回りに株式リスクプレミアム(ERP)を上乗せしたリターンが必要
- すなわち
益利回り ≈ 国債利回り + ERPが成立するはず
この式から導かれる「益利回りと国債利回りの差=イールドスプレッド」が、株式市場の割安度を示す指標となる。
イールドスプレッドとイールドレシオ
スプレッドの取り方には2つの流派がある。
イールドスプレッド(%) = 益利回り - 長期金利
イールドレシオ = 長期金利 ÷ 益利回り
イールドスプレッドは差、イールドレシオは比で表す。いずれもスプレッドが大きい/レシオが小さいほど株式が割安を示す。日本の野村證券の用語集や大和証券の解説でも両指標が紹介されている。
KABUDOでは直感的に分かりやすいイールドスプレッド(=益利回り − 国債利回り)を採用している。
なぜ日本株に米10年債を使ってはいけないのか
通貨の罠
日本株の益利回りを米10年債利回りと比べる分析をよく見かけるが、これは為替リスクを無視した誤った比較である。
米10年債は2026年4月時点で約4.3%、日本10年国債は約2.4%。日本株の益利回り6%を米10年債と比べると「スプレッド1.7ポイント」で割安感薄めに見える。しかし日本円で日本株を保有する投資家にとって、米10年債は購入時に円→ドル→米債、売却時に米債→ドル→円という為替変換を伴う別商品だ。為替差損益を含まない利回り比較には意味がない。
Gordon Growth Modelの枠組み
より厳密にはGordon Growth Model(配当割引モデル)で整理すると分かりやすい。
株式の要求リターン = 無リスク金利 + ERP
= 配当利回り + 永久成長率
この無リスク金利は「その株を保有する投資家の母国通貨の無リスク金利」である必要がある。日本円で日本株を保有する投資家の無リスク金利はJGB10Yであって、米10年債ではない。
米10年債を使うのは「日米アロケーション判断(円ドル切り替えを前提に米資産と比較したい)」という別の目的のときだけである。
現在のスプレッドで日本株の割安度を測る
2026年4月時点の実数値
2026年4月17日時点の日本10年国債利回りは2.428%である。東証プライム上場企業の平均PERを15倍と仮定すると、平均益利回りは約6.67%。イールドスプレッドは約4.2ポイントとなる。
KABUDO独自の4段階判定
KABUDOでは個別銘柄の益利回りと日本10年国債とのスプレッドを自動計算し、4段階で分類している。
- +4pt以上: 統計的に割安(株式リスクプレミアムが十分)
- +2〜+4pt: 妥当な株式リスクプレミアム
- 0〜+2pt: 割高寄り(株式としてのリターン余地が薄い)
- 0未満: 株式として割高(債券以下の期待リターン)
例えば配当・利益ともに安定した東証プライムの中堅株でPER12倍の銘柄は、益利回り約8.33%、JGB10Y 2.43%を引くとスプレッド+5.9pt で「統計的に割安」となる。
KABUDOでの使い方
個別銘柄ページの分析タブ の下部「分類別バリュエーション評価」カードに「益利回り」の行がある。当日の日本10年国債利回りと比較したスプレッドが表示され、4段階判定の文言も併記されている。
銘柄を横断して見たい場合は、低PERランキング から入り、PER 10倍以下の銘柄(=益利回り10%以上)を見ていくとスプレッドが高いゾーンの銘柄を効率的に発見できる。数値条件を自分で組みたい場合はスクリーナーでPER上限を絞ってからソートする使い方もある。低PERの罠については別記事「低PERの罠」で詳しく扱っている。
Fedモデルへの主要な批判と注意点
成長率を無視している
Fedモデルの最大の弱点は、益利回り=永久成長率ゼロの仮定と等価な点にある。Gordon Growth Modelで厳密に書くと 配当利回り = 要求リターン − 永久成長率 となり、成長率を無視すると割安判定は甘めに出る。
成長性を織り込むには、配当の持続性記事でも扱った長期視点や、自社過去PER比較(Fama-French平均回帰)と併用するのが実用的である。総合スコアで一括評価したい場合はスコアリング機能の「割安度」軸を活用すると銘柄横串での比較ができる。
インフレ時の歪み
Fedモデルは名目金利ベースでの比較のため、インフレ率が変わると実質比較がずれる。現金フローは実質ベース(インフレに応じて成長)、金利は名目ベース(インフレを含む)であり、高インフレ期には株式が過小評価されがちになる批判がある。
個別銘柄では業界特性を加味
赤字企業は益利回りがマイナス、超成長銘柄は益利回り極端に低い水準になるが、それぞれ「成長期待を織り込んだ結果」であってスプレッド単独では判定できない。業種ごとの標準的なPER水準(IT20倍、銀行8倍など)と併読する必要がある。
まとめ
益利回り(PERの逆数)を日本10年国債と比べるのは、日本株の相対割安度を測る最も古典的かつ直接的な手法である。Fedモデルの原理はシンプルだが、比較相手の通貨を間違えない(日本株にはJGB、米国株には米10年債)ことが前提条件となる。KABUDOでは分析タブで全銘柄について自動計算されているので、銘柄選定時の一次スクリーニング軸として活用できる。
ただし単独指標ではなく、成長率(PEG)や自社過去PER分位と組み合わせることで、より精度の高い割安判定が可能になる。