業種の温度はヒートマップで先に分かる

業績修正のヒートマップとは、過去30〜90日に発表された上方修正と下方修正の件数を業種ごとに集計し、「上方修正率(上方件数 ÷ 全件数)」で色分けしたものである。 個別銘柄を1社ずつ見るよりも、業種単位の偏りを先に観測することで、構造的な業績トレンドを早期に把握できる。

決算シーズンに入る直前(4-5月、10-11月)は、このヒートマップが最も情報を発信する時期だ。ある業種の上方修正率が70%を超えていれば、その業種は単発のサプライズではなく、業界全体に追い風が吹いている可能性が高い。逆に下方修正が集中しているセクターは、構造的な逆風を疑うべきだ。

この記事では、KABUDOの業績修正トラッカーを題材に、業種別ヒートマップの読み方、上方修正率の閾値の意味、そして個別銘柄分析より一手早く動くための実践手順を整理する。

業績修正トラッカーは何を見せるツールか

業績修正トラッカーは、東証上場企業が発表した期中の業績予想修正(売上・営業利益・純利益)を、銘柄横断で時系列に集約するページである。KABUDOの実装では、直近90日の修正データを以下4つのビューで提示する。

サマリーカード

直近90日の上方修正件数、下方修正件数、上方修正率(上方 ÷ 全件)を一目で表示する。市場全体の業績トレンドが「今、どちらに偏っているか」を最初に確認するパネルだ。

テーマ自動検出

ロジック側で「好調セクター(上方修正が集中する業種)」「注意セクター(下方修正が多い業種)」「大型株の上方修正(時価総額の大きい銘柄の修正)」を抽出し、テキストカードで提示する。スクロールせずに今週の主役テーマを把握できるよう設計されている。

業種別ヒートマップ

東証33業種ごとに上方修正率を計算し、緑(上方優位)・青(下方優位)・無色(中立)で塗り分けたグリッドだ。クリックするとそのセクター指定でスクリーナーに遷移する。本記事の中心テーマがこのヒートマップである。

フィルタ可能なテーブル

期間(30/60/90日)、方向(全/上方/下方)、市場区分(プライム/スタンダード/グロース)で絞り込んだ修正一覧を、修正幅・株価・PERでソートできる。深掘りはここから始まる。

なぜヒートマップは個別銘柄分析より速いのか

個別銘柄ベースで上方修正を追うと、どうしても「1社の良いニュース」を出発点にしてしまう。これには2つの遅れが入る。1つはニュース発生から自分が気づくまでの遅れ、もう1つは「これが業界全体のトレンドか、それとも単独の話か」を判断する遅れだ。

ヒートマップは、このうち後者の判断を先に与えてくれる。1社の上方修正が集計に乗った時点で、同業他社が過去30日に何件上方修正したかが横並びで見える。同業3〜4社が同方向に動いていれば、それは個社要因ではなく業界要因だ。

セクター連鎖という現象

業績修正は同業内で連鎖する傾向がある。理由は単純で、同じ業種の企業は同じ需要環境・同じコスト要因(原材料・為替・人件費)・同じ規制環境にさらされているからだ。半導体製造装置の上方修正は同業数社にほぼ同時期に出やすく、海運の運賃上昇は3社の決算に並んで反映される。

学術的にもセクター単位のモメンタムは長く実証されている。Moskowitz and Grinblatt (1999) は米国市場で「業種モメンタムは個別銘柄モメンタムを上回って説明力を持つ」ことを示した。業績修正のヒートマップは、このセクターモメンタムを修正発表という一次情報のレベルで観測する手段に近い。

KABUDOの実装上の特徴

KABUDOのヒートマップは、表示中の期間(30/60/90日)に応じて集計対象が動的に変わる仕様になっている。30日に絞れば「直近の温度」、90日にすれば「累積された業種の偏り」が見える。同じ業種でも30日と90日で色が違うときは、トレンドが始まったばかり終わりかけかのサインになる。

上方修正率70%超のセクターに何が起きているか

ヒートマップの判定閾値は、KABUDOの実装上は以下の3区分だ。

上方修正率 表示色 解釈
70%以上 緑(濃いほど高率) 上方優位、構造的追い風の可能性
30%以下 青(濃いほど低率) 下方優位、構造的逆風の可能性
30〜70% 無色 中立、個社要因が支配的

なぜ70%が意味のある閾値か

過去の業績修正データを集計すると、市場全体の上方修正率は概ね50〜60%程度で推移する。これは多くの日本企業が期初予想を保守的に出す慣行があるためで、四半期決算のたびに上方修正が下方修正をやや上回るのが平常状態だ。

この基準線を考えれば、業種単位で70%超は「平常の偏りを明確に超えた状態」を意味する。統計的には、業種内に5社以上の修正があり、そのうち7割が上方であれば、ランダムなばらつきでは説明しにくい水準に入る。

70%超セクターを見たときの読み方

ヒートマップで上方修正率70%超のセクターが現れたら、次の3点を確認したい。

1. 件数の絶対値 — 上方修正が4件・下方修正が1件で「80%」と出ていても、母数が小さければ偶然の偏りに過ぎない。上方件数が10件以上ある業種を優先する。

2. 大型株が含まれているか — 業種内の代表企業が修正組に入っていれば、テーマとしての確度が高い。テーマ自動検出の「大型株の上方修正」カードと突き合わせる。

3. 修正の中身 — クリックして業績修正トラッカーのテーブルに降り、各修正の修正幅(npPct)と要因(売上増か利益率改善か)を見る。同じ業種内で同じ方向の要因が並んでいれば、構造的な追い風と判断しやすい。

逆に、上方修正率30%以下の青いセクターは、その時点では避けるか、構造変化が一巡するまで見送るのが定石だ。下方修正の連鎖は、上方修正の連鎖と同じだけ強い。

期間切替30/60/90日の使い分け

期間ボタンの使い方には実践的な順序がある。

90日: トレンドの全体像

決算シーズン中であれば、過去四半期分の業績修正がほぼ全て含まれる。業種の構造的な強弱を俯瞰するのに使う。最初の1画面はここで構わない。

60日: 直近四半期の温度

四半期決算の通期予想修正は概ね決算発表から30〜60日以内に集中する。60日表示は「直近1四半期に何が起きたか」を見るためのレンズだ。

30日: 始まりかけの兆し

90日では中立色だった業種が、30日に切り替えた途端に緑になることがある。これは新しいトレンドが立ち上がっているサインだ。逆に、90日では緑だった業種が30日では中立に戻っていれば、トレンドが減速している。

期間切替は単独で使うのではなく、90日 → 60日 → 30日の順に切り替えて、色の変化を観察するのが正しい使い方だ。色が長期から短期に向かって濃くなる業種は加速、薄くなる業種は減速と読める。

業績修正トラッカーで失敗しないための3つの注意点

1. 1社の超大型修正で業種率が歪む

ある業種に1社だけ修正幅+50%の超大型上方修正が出ると、業種全体の数字が引っ張られて見える。修正幅(npPct)は集計の重み付けには使われていないが、テーマ自動検出の「大型株の上方修正」と業種ヒートマップを同時に見ることで、1社主導か業界主導かを切り分けたい。

2. 上方修正の中身が「コスト削減」だと持続性が低い

上方修正の理由が新規受注や数量増であれば持続性が高いが、リストラや一過性の費用減少が要因の場合は次の四半期で剥落する。修正の発表資料(IR)を読み、増収を伴う上方修正かどうかを必ず確認する。

3. 業種内のばらつきを無視しない

上方修正率70%でも、上方組と下方組が同じ業種内に併存している場合、業種内の競争優位の格差を反映している可能性がある。業種全体に乗るのではなく、業種内で勝ち残っている個別銘柄を選ぶアプローチに切り替える局面だ。

このとき、上方修正ランキングで個社の「上方修正率」のクセを確認すれば、業種ヒートマップでは見えない個社の継続性まで掘り下げられる。さらに四半期決算の読み方はQoQ視点での先読みと組み合わせると、修正前の段階で兆候を掴める可能性がある。

まとめ — ヒートマップは決算シーズンの最初の1枚

業績修正のヒートマップは、個別銘柄を追う前に業種の温度を測るためのツールだ。上方修正率70%超のセクターは平常の偏りを超えた状態であり、構造的な追い風の存在を示唆する。期間切替で30/60/90日の色の変化を観察すれば、トレンドの加速・減速まで読める。

決算シーズンに入る前にヒートマップを開き、緑が濃くなっている業種から候補銘柄を絞り込む。この流れを習慣化することで、ニュースを後追いするのではなく、業種単位の先行情報から動けるようになる。