- EV(電気自動車)やヒューマノイドロボットを動かす電池は、いまもリチウムイオン電池が主役。ただし電池の本体(セル)を組み立てるのは中国勢が圧倒的で、日本が量で競うのは難しい
- 日本の強みは、電池の「中身の材料」と「作る機械」にある。電池はサンドイッチのような構造で、その具材——プラス極・マイナス極・仕切りの膜・イオンが通る液——や、それを支える金属の薄い箔・接着剤・製造装置で、日本企業が世界トップ級のシェアを握る
- 全21社を、テーマの中心度で本命9社・準本命6社・関連6社に整理した(株価ではなく事業の中身で分類)。完成電池や資源は、姉妹記事「全固体電池」「系統用蓄電池」と役割が重なるため脇役に回した
📖 はじめに — この記事で出てくる専門用語(クリックで開く)
- リチウムイオン電池(LIB): 充電して繰り返し使える電池の主流。リチウムイオンが「プラス極」と「マイナス極」の間を行き来して電気を貯める。EV・スマホ・ロボの駆動源。
- セル / モジュール / パック: 電池の最小単位が「セル」、複数まとめたものが「モジュール」、車載用にさらに束ねたものが「パック」。
- 四大部材: 電池を構成する4つの主要材料=正極材(プラス極)・負極材(マイナス極)・セパレータ(仕切りの膜)・電解液(イオンが通る液)。電池の性能・安全性・コストを決める。
- 正極材(せいきょくざい): プラス極の材料。ニッケル・コバルト・マンガンを使ったタイプ(NCM/NCA)や、鉄を使った安価なタイプ(LFP)がある。電池の容量を左右する。
- 負極材(ふきょくざい): マイナス極の材料。黒鉛(グラファイト)が主流で、容量を高めるシリコン系も実用化が進む。
- セパレータ: プラス極とマイナス極が直接触れてショート(発火)するのを防ぐ薄い膜。微細な穴をイオンだけが通る。安全性に直結する部材。
- 湿式 / 乾式セパレータ: 作り方の違い。湿式は薄く均一で車載向けの高性能、乾式は低コスト。旭化成は湿式、UBEは乾式に強い。
- 電解液 / 電解質: イオンが移動する"液"が電解液、その中で実際にイオンを運ぶ"塩"が電解質。
- 六フッ化リン酸リチウム(LiPF6): 電解液に溶かす主要な"塩"。作るには高度なフッ素の化学技術が要り、関東電化・ステラケミファが世界級。
- 電解銅箔(でんかいどうはく): マイナス極の"下地"になる、極めて薄い銅の箔。電気を集めて流す。三井金属・古河電工が高シェア。
- アルミ箔: プラス極の"下地"になる極薄のアルミの箔。UACJなどアルミ圧延メーカーが供給。
- バインダー(PVDF): 材料を金属の箔にくっつける"のり"の役割。クレハのPVDF(フッ化ビニリデン樹脂)が代表格。
- 導電助剤(どうでんじょざい) / CNT: 電気の通り道を良くする"添加材"。カーボンナノチューブ(CNT)は次世代の導電助剤で、日本ゼオンが量産で先行。
- 塗工(とこう) / 捲回(まきとり): 電池の製造工程。材料を箔に「塗る」のが塗工、電極と仕切りの膜を「巻く」のが捲回。専用の機械が要る。
リチウムイオン電池とは — しくみと、日本の勝ち筋はどこにあるか
EVやロボを動かす電池の本体(セル)を組み立てるのは中国勢が圧倒的で、日本が量で競うのは難しい。日本の勝ち筋は、電池の"中身の材料"(仕切りの膜・イオンが通る液・電気を集める薄い金属箔など)と、それを"作る機械"にある。完成電池が中国製でも、その中身は日本から供給される。
EV(電気自動車)やヒューマノイドロボットを動かすには、大量のエネルギーを安全に貯め、何度も充電して使える電池が要る。その役割をいま担っているのがリチウムイオン電池だ。次世代の「全固体電池」も開発が進むが、当面のEV・ロボの駆動源はリチウムイオンが主役であり続ける。エネルギーの貯められる量・コスト・安全性・寿命のバランスで実用水準に達した量産技術が、ほかにないからだ。
電池の中身は、いわばサンドイッチのような構造だ。「プラス極(正極)」と「マイナス極(負極)」という2枚のパンがあり、その間に**ショートを防ぐ仕切りの膜(セパレータ)を挟み、全体をイオンが行き来する液(電解液)**で満たす。この4つが「四大部材」で、電池の性能・安全性・コストを決める。
ここで産業構造の大事な点は、電池の本体(セル)を組み立てる会社と、その中身の材料を作る会社が分かれていることだ。完成セルの量産はCATL・BYDなど中国勢が世界規模で押さえ、日本のセルメーカーは量で押される。しかし電池の性能・安全性・コストを決めるのは「中身の材料」と「作る機械」で、ここでは日本の化学・素材メーカーが世界トップ級のシェアを保つ。つまり本テーマの主役は、完成セルではなく部材・素材・装置の会社にある。
なぜ日本が中身で強いのか。これらの材料は、量産規模の勝負ではなく素材技術の蓄積で決まるからだ。たとえば——
- セパレータ(仕切りの膜): ショートを防ぐ安全部材。微細な穴を均一に開ける技術が壁になり、旭化成・UBEが世界級
- 電解質(LiPF6=イオンを運ぶ塩): 高度なフッ素の化学技術がないと高純度品を量産できず、関東電化・ステラケミファが世界供給を担う
- 電解銅箔(マイナス極の下地): 薄く均一に作る技術で、三井金属・古河電工が高シェア
- バインダー(のり)・導電助剤(電気の通り道): 微量ながら性能を底上げする"地味だが効く"部材で、クレハ・日本ゼオンがニッチを握る
これらは、完成セルが中国製でも中身の材料として日本から供給される。EV・ロボが普及すれば、そのまま部材需要の拡大につながるのが、本テーマの基本の形だ。
電池は「プラス極のパン」と「マイナス極のパン」の間に「仕切りの膜」を挟み、「イオンが通る液」で満たしたサンドイッチ。日本が強いのは、この"具材"そのもの(膜・液・極の材料)と、極の下地になる"極薄の金属箔"、材料をくっつける"のり"、そしてサンドイッチを作る"機械"。中国は完成品の量産が得意でも、具材は日本に頼る場面が多い。
どれくらいの規模で、日本はどこが強いのか
完成電池の量産は中国に劣勢でも、日本は"部材ごと"に世界トップ級のシェアを持つ。たとえばマイナス極の下地になる極薄の銅箔は、三井金属が世界シェア95%超。EVが普及するほど、こうした中身の材料に需要が波及する。
電池材料の市場は、部材ごとに分かれている。イオンを運ぶ塩(LiPF6)の世界市場は2023年に約27億ドル、2032年に約47億ドルへ拡大が予測される(出典: 市場調査各社)。仕切りの膜(セパレータ)では旭化成が湿式品で売上を将来およそ5倍へ引き上げる計画を掲げる(出典: 同社IR・報道)。マイナス極の下地になる極薄の銅箔(電解銅箔)では、三井金属のキャリア付極薄銅箔「MicroThin」が世界シェア95%超を維持する(出典: 同社製品情報・各種報道)。
完成セルの量産では中国勢が圧倒的だが、部材レベルでは日本企業が一つひとつトップ級のシェアを握るのが本テーマの特徴だ。仕切りの膜(旭化成/UBE)、イオンを運ぶ塩(関東電化/ステラケミファ/セントラル硝子)、マイナス極の銅箔(三井金属/古河電工)、プラス極のアルミ箔(UACJ)、のり(クレハ)、電気の通り道CNT(日本ゼオン)——それぞれで日本勢が世界の供給網に組み込まれている。一方、EVの普及ペースが鈍ると部材各社の業績にも響くため、本テーマは「EV普及という構造的な追い風」と「短期的な需給の波」の両面で見る必要がある。
電池ビジネスの全体像 — 「資源から再利用まで」を分けて見る
電池は「資源 → プラス極の材料 → マイナス極の材料 → 仕切りの膜 → イオンを運ぶ液 → 下地の金属箔やのり → 完成電池 → 制御 → 製造装置 → リサイクル」という流れでできている。日本が強いのは、膜・液・下地の箔・添加材・製造装置の各工程。完成電池や資源は脇役に置く。
電池のビジネスを「資源から再利用まで」の工程で分けると、おおむね次のようになる。聞き慣れない言葉には説明を添えた。本記事では、日本企業が世界級シェアを持つ工程(L4・L5・L6・L9)を本命格の中心に置く。
- L1 資源・原料: リチウム・ニッケル・コバルト・黒鉛・銅の調達。商社・製錬が担う最上流
- L2 正極材(プラス極の材料): ニッケル系(NCM/NCA)や鉄系(LFP)の材料と、その前段階の中間材料(前駆体)。電池の容量を決める
- L3 負極材(マイナス極の材料): 黒鉛(人造/天然)・シリコン系。容量と充電速度を左右する
- L4 セパレータ(仕切りの膜): プラス極とマイナス極のショートを防ぐ薄い膜。安全性に直結し、参入の壁が高い工程
- L5 電解液・電解質(イオンが通る液とその塩): イオンの移動媒体と、LiPF6などの塩。高度なフッ素化学が要る工程
- L6 下地の金属箔・のり・添加材: マイナス極用の銅箔・プラス極用のアルミ箔・接着剤(PVDF)・電気の通り道(CNT)。電池の性能を底上げする"地味だが効く"工程
- L7 セル・モジュール(完成電池): 電池本体。中国勢が寡占するが、車載・産業で残る日本勢もいる
- L8 制御・電源半導体: 電池の充放電を安全に管理する半導体。電池の"頭脳"
- L9 製造装置: 塗る・巻く・組む・検査する専用の機械。電池の量産を支える工程
- L10 リサイクル: 使用後の電池から希少金属を回収。資源を循環させる出口
本記事では、日本が世界級シェアを持つL4(仕切りの膜)・L5(イオンを運ぶ塩)・L6(下地の箔・添加材)・L9(製造装置)を本命格の中心に置く。資源(L1)・完成電池(L7)・リサイクル(L10)は、テーマに関わるものの日本企業の優位が相対的に薄いか、姉妹テーマと事業が重なるため脇役に整理する。
関連銘柄 全21社 一覧
🟢 本命: テーマ事業が主力 + 世界or国内シェアトップ級 + 構造的需要への直接受益
🔵 準本命: テーマで重要な位置 + 規模/事業比率は中程度
⚪ 関連: テーマに関与あり + 規模・事業比率は限定 + ニッチ/周辺サポート
※ ランクは「テーマとの関与度・事業比率・世界シェア」で判定。株価騰落とは無関係。
| コード | 銘柄 | 工程 | 役割/特徴 | 時価総額 | 分類 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3407 | 旭化成 | L4 仕切りの膜 | 仕切りの膜(湿式セパレータ「ハイポア」)で車載向け世界最大手級 | 約2.42兆円 | 🟢本命 |
| 4208 | UBE | L4/L5 膜+液 | 仕切りの膜(乾式)とイオンが通る液の両方を供給 | 約2,868億円 | 🟢本命 |
| 4047 | 関東電化工業 | L5 塩 | イオンを運ぶ塩(LiPF6)を1997年から量産・世界トップ級 | 約2,079億円 | 🟢本命 |
| 4109 | ステラケミファ | L5 塩 | 高純度のLiPF6・高純度フッ素化学で世界級 | 約853億円 | 🟢本命 |
| 5706 | 三井金属 | L6 下地の箔 | マイナス極の下地になる極薄銅箔で世界シェア95%超 | 約2.95兆円 | 🟢本命 |
| 5741 | UACJ | L6 下地の箔 | プラス極の下地になるアルミ箔・アルミ圧延世界3位 | 約6,011億円 | 🟢本命 |
| 4023 | クレハ | L6 のり | 材料を箔にくっつける"のり"(PVDF)で高シェア | 約1,492億円 | 🟢本命 |
| 4205 | 日本ゼオン | L6 添加材 | 電気の通り道を良くする次世代添加材(単層CNT)を世界初量産 | 約4,189億円 | 🟢本命 |
| 6407 | CKD | L9 製造装置 | 電極と膜を高速・高精度に巻く製造装置 | 約4,384億円 | 🟢本命 |
| 4044 | セントラル硝子 | L5 塩/添加剤 | LiPF6と、電池を長持ちさせる独自の添加剤 | 約1,017億円 | 🔵準本命 |
| 4188 | 三菱ケミカルグループ | L3/L5 負極材+液 | マイナス極の材料とイオンが通る液の両方を展開・増産中 | 約1.56兆円 | 🔵準本命 |
| 4004 | レゾナック | L3 負極材 | マイナス極の材料(人造黒鉛・旧日立化成系)・黒鉛技術 | 約3.39兆円 | 🔵準本命 |
| 6104 | 芝浦機械 | L9 製造装置 | 仕切りの膜(セパレータ)を作る押出成形機 | 約935億円 | 🔵準本命 |
| 6245 | ヒラノテクシード | L9 製造装置 | 電極に材料を塗る装置(コーター)に強み | 約303億円 | 🔵準本命 |
| 4005 | 住友化学 | L2/L4 正極材+膜 | 耐熱コートの仕切りの膜・プラス極の材料(前駆体メーカー統合) | 約1.01兆円 | 🔵準本命 |
| 5713 | 住友金属鉱山 | L1/L2 資源+正極材 | ニッケル製錬からプラス極の材料(NCA)まで一貫 | 約2.46兆円 | ⚪関連 |
| 6752 | パナソニックHD | L7 完成電池 | 車載用の円筒形セル(テスラ向け)・国内代表のセルメーカー | 約8.64兆円 | ⚪関連 |
| 6674 | GSユアサ | L7 完成電池 | 車載・産業用リチウムイオン電池の専業大手 | 約6,580億円 | ⚪関連 |
| 8015 | 豊田通商 | L1 資源 | リチウム権益・国産水酸化リチウムを担うトヨタ系商社 | 約7.32兆円 | ⚪関連 |
| 5801 | 古河電気工業 | L6 下地の箔 | マイナス極の下地になる電解銅箔で世界トップ級 | 約3.66兆円 | ⚪関連 |
| 5724 | アサカ理研 | L10 リサイクル | 使用後の電池から希少金属を回収 | 約133億円 | ⚪関連 |
🟢 本命(全9社)
旭化成(3407)
何をしている会社か: 化学・住宅・ヘルスケアの総合メーカー。電池の仕切りの膜(セパレータ)で車載向け世界最大手級の地位を持つ。
セパレータとは、電池の中でプラス極とマイナス極が直接触れてショート(発火)するのを防ぐ薄い膜のこと。微細な穴をイオンだけが通る仕組みで、安全性に直結する。旭化成はリチウムイオン電池が世界で初めて実用化された頃から関わる草分けで、薄く均一な「湿式」の膜「ハイポア」と「乾式」の膜を展開する。車載用では薄く均一な湿式品が求められ、作る技術の壁が高い。同社は湿式の膜の売上を将来およそ5倍へ引き上げる計画を掲げ、北米・日本・韓国で生産を増やしている。完成電池が中国製でも、安全を握る膜は旭化成のような高機能メーカーから供給される。四大部材の中で最も日本勢の優位が効く工程の本命格筆頭だ。
UBE(4208)
何をしている会社か: 化学・建設資材のメーカー(旧・宇部興産)。仕切りの膜(乾式)とイオンが通る液(電解液)の両方を電池に供給する。
UBEは、四大部材のうち「仕切りの膜」と「イオンが通る液」の2つを手がける数少ない企業だ。乾式の膜は湿式より低コストで、用途に応じた使い分けが進む。電解液(イオンが行き来する液)でも高い技術を持つ。1社で複数の部材を供給できる総合力が強みで、電池メーカーは調達先を集約できる利点がある。化学の本業が大きく電池部材の比率は中程度だが、膜と液の"二刀流"で本命格に置く。
関東電化工業(4047)
何をしている会社か: フッ素化学の専門メーカー。イオンを運ぶ塩(LiPF6)を1997年から量産し、世界トップクラスの品質と供給力を持つ。
電解液(イオンが通る液)の中で、実際にイオンを運ぶ"塩"が「六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)」だ。これを作るには高度なフッ素の化学技術が要り、参入の壁が極めて高い。関東電化は四半世紀にわたりこの塩を作り続けてきた世界級プレイヤーで、フッ素化学を軸に「半導体用の特殊ガス」と「電池用の塩」の両輪で事業を展開する。完成電池が中国製でも、この塩は関東電化のような高純度メーカーから供給される。塩の工程の本命格だ。なお同社の半導体用特殊ガス事業は別テーマ(AI半導体材料)で扱う領域で、電池用の塩とは事業が分かれている。
ステラケミファ(4109)
何をしている会社か: 高純度フッ素化学の専門メーカー。**高純度のLiPF6(イオンを運ぶ塩)**と、半導体向けの高純度フッ酸で世界級のニッチを握る。
ステラケミファは高純度のフッ素化合物に特化し、電池用の塩(LiPF6)と半導体製造用の高純度フッ酸を主力とする。塩の純度は電池の寿命・安全性に直結するため、高純度品を安定供給できる技術が競争力の核になる。関東電化と並ぶ世界級のサプライヤーとして、塩の工程の本命格だ。半導体用の高純度フッ酸はAI半導体材料テーマで扱う領域で、電池用の塩とは事業が分かれている。
三井金属(5706)
何をしている会社か: 非鉄金属・電子材料のメーカー。マイナス極の"下地"になる極薄の銅箔で世界シェア95%超を握るニッチトップ。
マイナス極の材料は、極めて薄い銅の箔(電解銅箔)の上に塗られる。この銅箔が「下地(集電体)」で、電気を集めて流す役割を担う。薄く均一に作るほど電池を軽く・高容量にできる。三井金属のキャリア付極薄銅箔「MicroThin」は世界シェア95%超という圧倒的なニッチトップ製品だ。半導体基板向けの極薄銅箔技術を電池用に展開しており、薄く作る技術の蓄積が参入の壁になっている。下地の箔の工程で世界を寡占する本命格だ。なお同社の金属製錬事業は別テーマ(金・銀・銅)で扱う領域で、電池用の銅箔(部材加工)とは事業の中身が分かれている。
UACJ(5741)
何をしている会社か: アルミ圧延で国内首位・世界3位のメーカー。プラス極の"下地"になる極薄のアルミ箔を車載電池向けに供給する。
マイナス極の下地が銅箔なら、プラス極の下地は極薄のアルミ箔だ。UACJはアルミ圧延で世界3位の規模を持ち、この電池用アルミ箔を増産している。薄く強度を保つ合金の技術が求められる。マイナス極の銅箔(三井金属)と対になる、プラス極側の下地を握る位置で、電池の両極の下地が日本勢で揃う構造を体現する。アルミ圧延の本業に電池箔の追い風が乗る本命格だ。
クレハ(4023)
何をしている会社か: 機能性化学のメーカー。**材料を金属の箔にくっつける"のり"(PVDFバインダー)**で高シェアを持つ。
電極の材料を下地の箔にくっつけるには"のり"が要る。それが「PVDF(フッ化ビニリデン樹脂)バインダー」で、クレハの「KFポリマー」が代表格だ。リチウムイオン電池が商用化された当初から使われてきた。のりは微量だが、電池の耐久性・性能に直結する部材で、安定供給が競争力になる。仕切りの膜のコート材としても使われ、複数の用途で電池に組み込まれる。フッ素化学のニッチを握る本命格だが、EVの普及ペースの変動が業績に影響しやすい点には留意したい。
日本ゼオン(4205)
何をしている会社か: 合成ゴム・機能性材料のメーカー。電気の通り道を良くする次世代の添加材「単層カーボンナノチューブ(CNT)」を世界に先駆けて量産する。
電池の中で、材料どうしの「電気の通り道」を良くする添加材を「導電助剤」という。日本ゼオンはその次世代版である単層CNT(極細の筒状の炭素)を独自製法で量産する世界先行企業だ。従来のカーボンより少量で高い電気の通りを実現し、電池の高容量化・高出力化に効く。電池用の"のり"も手がけ、CNTの生産能力を大きく増やす計画を持つ。次世代の添加材で世界をリードする位置で、電池の性能向上に直結する材料の本命格だ。
CKD(6407)
何をしている会社か: 自動機械・空圧機器のメーカー。**電極と仕切りの膜を高速・高精度に巻く製造装置(捲回機)**を供給する。
電池を作る工程で、電極と仕切りの膜を巻き取る作業を「捲回(まきとり)」という。CKDはこの捲回機に強く、品質と生産性を左右する重要工程を支える。高速かつ高精度に巻く技術が求められる。製造装置は完成電池が中国製でも、機械として日本から供給される。電池の量産が増えるほど装置の需要が直接伸びる構造で、製造装置の工程で電池の量産を支える本命格だ。
🔵 準本命(全6社)
セントラル硝子(4044)
何をしている会社か: ガラス・化学のメーカー。イオンを運ぶ塩(LiPF6)と、電池を長持ちさせる独自の添加剤を供給するフッ素化学プレイヤー。
セントラル硝子はフッ素化学を強みに、塩(LiPF6)と、電池の性能を高める電解液の添加剤を展開する。添加剤は塩と一緒に使うことで電池の寿命・安全性を向上させる独自技術で、液の付加価値を高める。関東電化・ステラケミファに次ぐプレイヤーとして、添加剤での差別化を狙う。ガラスの本業が大きく電池部材の比率は中程度のため準本命に置く。
三菱ケミカルグループ(4188)
何をしている会社か: 国内最大の総合化学メーカー。マイナス極の材料(負極材)とイオンが通る液(電解液)の両方を供給し、負極材の増産を進める。
三菱ケミカルは、マイナス極の材料(天然黒鉛・人造黒鉛)と電解液の両方を手がける総合化学プレイヤーだ。負極材で世界上位、電解液でも世界級の位置を持ち、複数の部材を1社で供給できる。負極材の生産能力を大きく増やす計画を進めており、車載向けの拡大を狙う。総合化学の本業が巨大で電池部材の比率は中程度のため準本命に置くが、四大部材のうち2つを握る位置は重い。
レゾナック・ホールディングス(4004)
何をしている会社か: 総合化学メーカー(旧・昭和電工)。**マイナス極の材料(人造黒鉛の負極材)**を展開し、黒鉛の技術で電池の負極を支える。
レゾナックは旧・日立化成系の人造黒鉛の負極材を持ち、黒鉛電極で世界トップ級の技術を電池の負極に応用する。人造黒鉛は天然黒鉛より品質が安定し、車載用の長寿命電池に向く。総合化学の本業が大きく電池負極の比率は限定的だが、黒鉛技術の蓄積で負極材の工程の一角を占める。マイナス極の材料の準本命に置く。
芝浦機械(6104)
何をしている会社か: 工作機械・産業機械のメーカー(旧・東芝機械)。仕切りの膜(セパレータ)を作る押出成形機を供給する。
芝浦機械は、材料を押し出して成形する技術を活かし、仕切りの膜(セパレータ)を作る装置を手がける。膜を薄く・均一にできるかは装置の精度に左右されるため、製造装置メーカーの技術が部材の品質を決める。工作機械の本業が大きく電池装置の比率は中程度だが、膜を作る装置の供給で本テーマの装置工程を補う準本命だ。
ヒラノテクシード(6245)
何をしている会社か: 塗工・コーティング装置の専門メーカー。**電極に材料を塗る装置(コーター)**に強みを持つ。
電池の製造で、材料を下地の箔に塗る工程を「塗工」という。ヒラノテクシードはこの塗工機(コーター)に特化した装置ニッチだ。塗りの厚み・均一さが電池の性能を左右するため、装置の精度が品質を決める。時価総額は小型で、塗工装置に事業が集中する純度の高さが特徴。電池の量産が増えるほど塗工機の需要が直接伸びる位置で、製造装置の工程の準本命に置く。
住友化学(4005)
何をしている会社か: 総合化学メーカー。**耐熱コートの仕切りの膜と、プラス極の材料(正極材)**を展開し、正極材の前段階の中間材料(前駆体)メーカー(旧・田中化学研究所)を統合して車載向けを強化する。
住友化学は、熱に強いコートを施した仕切りの膜と、プラス極の材料を手がける総合化学プレイヤーだ。プラス極の材料の前段階にあたる中間材料(前駆体)の専業だった旧・田中化学研究所を完全子会社化し、中間材料からプラス極の材料までを自社内で作れるようにして車載向けを強化している。膜と正極材の両部材を持つが、総合化学の本業が巨大で電池部材の比率は中程度のため準本命に置く。
⚪ 関連(全6社)
住友金属鉱山(5713)
何をしている会社か: 非鉄金属の製錬・電子材料の大手。ニッケルの製錬からプラス極の材料(NCA)まで一貫して作り、テスラ向け電池の正極材を供給してきた。
住友金属鉱山はニッケルの製錬とプラス極の材料を一貫生産する数少ない企業で、ニッケル系の正極材(NCA)でテスラ向けに高シェアを持ってきた。資源(ニッケル)からプラス極の材料までを自社でつなぐのが強みだが、同社は次世代の「全固体電池」テーマで本命格として扱う(トヨタとの正極材協業)。本テーマ(現行リチウムイオン)では正極材・資源の関連枠に置き、役割の重複を避ける。
パナソニックホールディングス(6752)
何をしている会社か: 家電・電池・住宅設備の総合メーカー。**車載用の円筒形のセル(電池本体)**でテスラ向け供給の実績を持つ、国内代表のセルメーカー。
パナソニックHDは車載用の円筒形セルでテスラ向け供給を続け、北米で大型の量産投資を進める国内最大級のセルメーカーだ。完成セルでは日本勢の代表格だが、中国勢の量に対抗する構図で、本テーマの主役である"中身の材料"とは工程が異なる。完成電池の工程の代表として関連枠に置く(同社は系統用蓄電池テーマでも扱うセルプレイヤー)。
GSユアサ(6674)
何をしている会社か: 蓄電池・産業用電源の専業大手。車載・産業用のリチウムイオン電池を展開する国内代表格。
GSユアサは自動車用・産業用のリチウムイオン電池を手がける蓄電池専業大手で、ホンダとの合弁でHV/EV用電池の量産を準備する。完成電池の工程のプレイヤーだが、本テーマの主役は"中身の材料"であり、また同社は系統用蓄電池テーマで本命格として扱うため、本記事では完成電池の関連枠に置く。
豊田通商(8015)
何をしている会社か: トヨタグループの商社。リチウム権益の確保と国産の水酸化リチウムの生産で、電池資源の最上流を担う。
豊田通商はアルゼンチンの塩湖のリチウム権益を持ち、福島で水酸化リチウム(電池材料の原料)を国産化するなど、トヨタ系の電池資源戦略の中核を担う。資源・原料の最上流に位置し、電池材料の供給網を確保する役割だ。商社の本業が巨大で電池資源の比率は限定的だが、リチウム資源の確保という上流の要を握る関連枠に置く。
古河電気工業(5801)
何をしている会社か: 電線・非鉄金属のメーカー。マイナス極の"下地"になる電解銅箔で世界トップ級のシェアを持つ。
古河電工は、マイナス極の下地になる極薄の銅箔(電解銅箔)で世界トップ級のシェアを持ち、三井金属と並ぶプレイヤーだ。表面が滑らかで電気をよく通す銅箔の技術で、車載向けを展開する。下地の箔の工程では本命級の技術を持つが、同社は光ファイバ・光通信やAI向けの配線でも他テーマに該当する多角化企業のため、本記事では下地の箔の関連枠に置く。
アサカ理研(5724)
何をしている会社か: 貴金属・希少金属リサイクルの企業。使用後のリチウムイオン電池から希少金属を回収する再資源化事業を進める。
アサカ理研は貴金属リサイクルの技術を持ち、使用後のリチウムイオン電池からニッケル・コバルト・リチウムを回収する事業の量産化を目指す。EVが普及すれば将来、大量の使用済み電池が出るため、電池リサイクルは時間差で立ち上がる成長分野だ。時価総額は小型で、リサイクルの工程の関連枠に置く(電池リサイクルは都市鉱山テーマとも重なる領域)。
本命・準本命・関連は、どう分けたか
「日本企業が勝てる工程かどうか」で分けた。完成電池は中国勢が量で寡占するので、そこで競う会社は本命にしていない。代わりに、仕切りの膜・イオンを運ぶ塩・下地の箔・添加材・製造装置という"日本が強い中身"を本命に置いている。
本記事の3段分類は、①テーマ事業の比率(売上に占める電池材料・装置の割合)、②世界・国内シェアの順位や事業の純度、③構造的な受益度(EV・ロボ向け電池の需要が業績にどれだけ直結するか)、の3つを総合して判定している。
特に重視したのは**「日本企業の優位が集中する"中身と機械"の工程を本命に置く」という考え方**だ。完成電池(L7)は中国勢が量で寡占しており、そこで競う日本のセルメーカー(パナHD/GSユアサ)を本命にしても、量の勝負に巻き込まれて受益が読みにくい。そこで本記事は、仕切りの膜(旭化成/UBE)・イオンを運ぶ塩(関東電化/ステラケミファ)・下地の箔(三井金属/UACJ)・のり(クレハ)・添加材(日本ゼオン)・製造装置(CKD)——量ではなく素材技術で勝負が決まり、日本勢が世界級シェアを持つ工程を本命格に並べた。
また本テーマは、姉妹テーマの「全固体電池」(次世代技術)・「系統用蓄電池」(据え置きの大型用途)と銘柄が一部重なる。重なる銘柄(住友金属鉱山=全固体の本命、パナHD/GSユアサ=蓄電池の本命)は、それぞれのテーマで主役の銘柄を本記事では関連枠に下げ、現行リチウムイオンの"中身と機械"に主役を絞ることで、3テーマの役割を分けている。読者は「次世代技術なら全固体」「据え置きインフラなら系統用蓄電池」「現行EV・ロボの中身で堅く取るなら本テーマ」と使い分けられる。
今後、何を見ていればいいか
大きく3つ。①EV・ロボの世界販売台数と電池の搭載量(需要そのもの)、②主要な部材メーカーの増産計画(追い風の確からしさ)、③各部材の世界シェアに対する中国勢の追い上げ(競争環境)。この3つで、中身の各工程への波及と競争の状況が読める。
- EV・ロボの世界販売台数と電池の搭載量 — 部材需要の大本のドライバー。EV普及のペースが部材各社の業績を左右する
- 主要な部材メーカーの増産計画 — 追い風の確からしさを示す先行指標。増産の実行が需要見通しを映す
- 各部材の世界シェアと中国勢の追い上げ — 日本勢の優位が続くかの競争指標。仕切りの膜・イオンを運ぶ塩で中国勢の台頭が焦点
- リチウム・ニッケルなどの資源価格 — 部材のコストと採算を左右する上流の指標
- 製造装置の受注動向 — 電池工場の新増設を映す先行指標。CKDや塗工機メーカーの受注で量産拡大が見える
気をつけたいリスク
主なリスクは3つ。①EVの普及ペースが鈍ると部材の需要が伸び悩む。②仕切りの膜やイオンを運ぶ塩などで中国勢が追い上げ、価格が下がる。③リチウム・ニッケルなどの資源価格の変動。実際、EVの停滞を受けて一部の部材メーカーでは業績の振れが大きくなっている。次世代の全固体電池への移行が早まれば、現行リチウムイオン部材の需要見通しが変わるリスクもある。
完成電池は中国勢が量で圧倒する状態が続いており、日本勢は仕切りの膜・イオンを運ぶ塩・下地の箔・添加材・製造装置といった"中身と機械"での収益化に軸足を置く。ただしこれらの部材でも中国勢が品質を高めて追い上げており、価格競争に巻き込まれるリスクがある。EVの普及ペースは政策・補助金・充電インフラに左右され、想定より鈍れば部材の需要が伸び悩む。実際に一部の部材メーカーでは、EV停滞を受けた業績の振れが出ている。さらに全固体電池などの次世代技術への移行が進めば、現行リチウムイオン部材の長期の需要見通しが変わるリスクも意識しておきたい。
- EV・ロボの駆動源は現行リチウムイオン電池。完成電池は中国の寡占で、日本の勝ち筋は四大部材(プラス極・マイナス極・仕切りの膜・イオンが通る液)と下地の箔・添加材・製造装置という"中身と機械"にある
- 本命9社は仕切りの膜(旭化成/UBE)・イオンを運ぶ塩(関東電化/ステラケミファ)・下地の箔(三井金属/UACJ)・のり(クレハ)・添加材(日本ゼオン)・製造装置(CKD)。量ではなく素材技術で世界級シェアを持つ工程を集めた
- 準本命6社は塩の添加剤(セントラル硝子)・マイナス極の材料(三菱ケミカル/レゾナック)・装置(芝浦機械/ヒラノテクシード)・膜と正極材(住友化学)
- 関連6社は資源(住友金属鉱山/豊田通商)・完成電池(パナHD/GSユアサ)・下地の箔(古河電工)・リサイクル(アサカ理研)。全固体・系統用蓄電池テーマで本命の銘柄は本記事では関連に下げた
- 見るべきは①EV・ロボの販売台数と電池搭載量、②部材メーカーの増産計画、③中国勢の追い上げ、④資源価格、⑤製造装置の受注動向
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