この記事の要点
  • CMP(化学機械研磨)は半導体ウェハをナノレベルに平らに磨く工程。3D NANDの層数増(現300層→将来500層超)・HBMの多層スタッキング・ロジック2nm化で**1枚あたりの研磨ステップ数が世代ごとに倍々で増える**ため、構造的に消耗品・装置の総需要が膨らみ続ける領域
  • 装置(荏原・東京精密)・スラリー(レゾナック/フジミ/富士フイルム)・研磨パッド(ニッタ・デュポン世界シェア約8割)・ダイヤモンドコンディショナー(旭ダイヤモンド/ノリタケ)・スラリー原料(扶桑化学コロイダルシリカ世界トップ)の**5階層すべてに日本企業の世界級プレイヤーが居座る**寡占構造
  • 本命8社・準本命4社・関連5社の合計17社をFundabase独自の階層分類で整理。読者が継続観測すべき指標はメモリ大手の設備投資・ロジック新工場のウェハ投入量・先端ノード移行率の3点
📖 はじめに — この記事で出てくる専門用語(クリックで開く)
  • CMP: Chemical Mechanical Polishing(化学機械研磨)の略。ウェハ表面を薬液と砥粒で化学的に溶かしながら、研磨パッドで機械的に削って、ナノレベルに平らにする工程
  • ウェハ: 半導体チップの土台になるシリコンの円盤。直径300mmが主流
  • スラリー: CMPで使う研磨液。微細な砥粒(コロイダルシリカやセリア)を薬液に混ぜたもの
  • コロイダルシリカ: 砥粒として使われる、ナノメートル単位の超微細なシリカ粒子。CMPスラリーの主成分
  • セリア: 酸化セリウムから作る砥粒。シリコン酸化膜の研磨で使われる
  • 研磨パッド: ウェハと擦り合わせる軟質ポリウレタン製の円盤状消耗品。1枚で数百枚のウェハを処理して交換
  • ダイヤモンドコンディショナー: 使い続けると目詰まりする研磨パッド表面をダイヤ砥粒で削って再生する円盤状の治具
  • FEOL / BEOL: Front End / Back End Of Line。トランジスタを作る前工程(FEOL)と、配線を作る後工程(BEOL)。CMPは両工程で使われる
  • 3D NAND: メモリセルを縦方向に何層も積み上げたNAND型フラッシュメモリ。1チップで500層超への高層化が進む
  • HBM: 高帯域メモリ。DRAMチップを縦に何枚も積層してAIアクセラレータ横に貼り付ける、AI向け超高速メモリ
  • ロジック2nm: 半導体回路の最小線幅が2ナノメートル世代のロジックチップ。GAA構造への移行で平坦化精度要求が一段上がる
  • FinFET / GAA: トランジスタ構造。GAA(Gate-All-Around)は2nm世代で本格化する次世代構造で、CMPの平坦化精度要求が厳しくなる
  • OEM: ここでは荏原・東京精密などCMP装置メーカーから装置を購入する半導体メーカー(TSMC・Samsung・SK hynixなど)を指す

CMP(化学機械研磨)とは — 産業構造と物理ボトルネック

半導体チップを作るには、シリコンウェハの上に数十層以上の薄膜を積み重ね、回路を刻む工程を繰り返す。問題は、薄膜を1層積むたびに表面に微細な凹凸が生じることだ。凹凸が残ったまま次の層を載せると、上層の露光ピントが合わず、回路パターンが歪む。**CMPは1層ごとに表面を強制的にナノレベルへ平坦化する、半導体製造の「リセットボタン」**にあたる工程である。

CMPの物理的ボトルネックは、ウェハと研磨パッドの間にスラリー(微細砥粒を含む研磨液)を流しながら、化学反応と機械的研磨を同時に進行させる点にある。砥粒の粒径、薬液の組成、パッドの硬さ、研磨圧力、ダイヤモンドコンディショナーによるパッド面の目立て頻度——これら全ての変数が、ナノメートル以下の平坦度に直接効く。1パラメータの乱れがチップ歩留まりに直撃するため、各階層の消耗品・装置に極めて高い技術参入障壁が立つ。

3D NANDの層数が300層を超え将来500層超へ、HBMはDRAMチップの12層→24層→将来36層への多層化、ロジックは5nm→3nm→2nmと微細化が進む全てのプロセスで、1枚のウェハに必要なCMPステップ数が世代ごとにほぼ倍々で増える。CMP消耗品(スラリー・パッド・コンディショナー)は枚葉処理ごとに消費されるため、ウェハ投入量×ステップ数の積で需要が決まる。装置と消耗品の両方が、半導体産業の量と質の両方の伸びを掛け算で受ける構造になっている。

要点

CMPは半導体製造のあらゆる世代更新(NAND高層化・HBM多層化・ロジック微細化)で必ずステップ数が増える「世代倍々増」の典型工程。装置・スラリー・パッド・コンディショナー・原料の5階層すべてに日本企業の世界級プレイヤーが居る、稀有な日本主導サプライチェーンである。

CMP市場の規模感

結論

CMP市場は装置・スラリー・パッド・コンディショナーの4つの主要セグメント合計で年間数千億円規模。スラリー単体で2030年代に37億ドル前後への拡大が予測されており、CAGR 6-7%の構造成長領域。

CMPスラリー市場の将来予測は調査会社により幅があるが、複数のソースが**2030年代前半に世界市場規模30〜37億ドル前後、CAGRは6〜7%**前後で一致している(出典: Business Research Insights "CMP Slurry Market Outlook" 2026年取得時点)。CMP装置市場は世界寡占で、米Applied Materialsが約5割、荏原製作所が約3割で続く。CMPダイヤモンドコンディショナー市場は2024年に約4億ドル、2033年に約5億ドル(CAGR 6.2%)への拡大が予測されている(出典: Straits Research)。

6-7%
CMPスラリー市場CAGR(2024-2033予測)
約8
CMP研磨パッド世界シェア(ニッタ・デュポン、2018年LINX調査)
5階層
日本企業が世界級ポジションを持つCMPサプライチェーンの階層数

CMP市場の特徴は、装置の世界市場規模は数千億円規模で限られる一方、ウェハ1枚あたりのCMPステップ数が世代更新で倍々増するため、消耗品(スラリー・パッド・コンディショナー)市場が装置市場を上回るペースで構造成長する点にある。装置メーカーは1台数億円〜10億円の装置を売ったら終わりではなく、装置稼働後の消耗品サプライチェーンに長期間ぶら下がるリカーリングモデルが成立する。

バリューチェーンの役割分類

CMPサプライチェーンは、ウェハ研磨を実現するために必要な「物理的な機能」で5階層に分解できる。各階層が独立した技術領域で、それぞれに世界寡占級のプレイヤーが居る。

  • L1 CMP装置(本体): ウェハ研磨を実行する装置本体。1台数億円〜10億円規模で、研磨ヘッド・スラリー供給系・洗浄系・搬送系を統合。世界では米Applied Materialsと日本の荏原製作所の実質2社寡占
  • L2 CMPスラリー(研磨液): 砥粒(コロイダルシリカ or セリア)を薬液に混ぜた研磨液。配線層用(銅・タングステン)、絶縁膜用、シリコン酸化膜用、シリコン窒化膜用で配合が違う。CMP消耗品の中で最も売上規模が大きい領域
  • L3 研磨パッド: ウェハと擦り合わせる軟質ポリウレタン製の円盤状消耗品。ニッタ・デュポンが世界シェア約8割の寡占。1枚で数百枚のウェハを処理して交換するため、ウェハ投入量に比例して消費される
  • L4 ダイヤモンドコンディショナー: 使うと目詰まりする研磨パッド表面をダイヤ砥粒で削って再生する円盤状治具。日本の旭ダイヤモンド工業とノリタケが世界級プレイヤー
  • L5 原料・周辺(コロイダルシリカ・供給システム・計測): スラリー原料の超高純度コロイダルシリカ(扶桑化学が世界トップ級)、スラリー調合・供給システム、研磨後の洗浄装置、プロセス分析機器など

このバリューチェーン分類軸は、テーマの構造そのものを表すため長期に渡って不変である。各階層の銘柄ランクや具体プレイヤーは年次で見直すが、軸そのものは変わらない。

関連銘柄 全17社 一覧

ランクの定義

🟢 本命: CMP事業が主力 + 該当階層で世界シェアトップ級 + 構造的需要への直接受益
🔵 準本命: CMPで重要な位置 + 規模/事業比率は中程度 + 第2勢力 or 周辺装置の重要プレイヤー
⚪ 関連: CMPに関与あり + 事業比率は限定 + ニッチ/周辺サポート/CMP対象ウェハ供給

※ ランクは「テーマとの関与度・事業比率・世界シェア・該当階層での位置」で判定。株価騰落とは無関係。

コード銘柄階層役割 / 世界シェア・特徴時価総額分類
6361荏原製作所L1 装置CMP装置世界2位(推定3割)・国内唯一・2nm対応装置開発約2.35兆円🟢本命
7729東京精密L1 装置CMP装置・ウェハ測定装置・国内CMP装置の第2勢力約6,460億円🟢本命
4004レゾナック・ホールディングスL2 スラリーCMPスラリー世界2位・セリアスラリー世界トップ約2.95兆円🟢本命
4901富士フイルムホールディングスL2 スラリー銅配線用CMPスラリー世界トップ・2030年トップ目標約3.80兆円🟢本命
5384フジミインコーポレーテッドL2 スラリーFEOL CMP向けスラリー世界シェア5割強・半導体研磨材専業約2,340億円🟢本命
5186ニッタL3 パッドニッタ・デュポン(JV)でCMP研磨パッド世界シェア約8割約1,520億円🟢本命
4368扶桑化学工業L5 原料超高純度コロイダルシリカ世界トップ・スラリー原料パイオニア約4,140億円🟢本命
6140旭ダイヤモンド工業L4 コンディショナーCMPダイヤモンドコンディショナー大手・25年以上の実績約620億円🟢本命
5201AGCL2 スラリー原料砥粒からスラリーまで一貫生産・ガラス大手の半導体材料部門約1.32兆円🔵準本命
3104富士紡ホールディングスL3 パッド独自研磨パッド「POLYPAS」・ニッタ・デュポン対抗の国産勢約1,430億円🔵準本命
5331ノリタケL4 コンディショナーCMP用コンディショナー・ファインセラミックス・砥石技術約1,880億円🔵準本命
4088エア・ウォーターL5 供給CMPスラリー調合・供給システム(ラピダス向け受注実績)約5,710億円🔵準本命
4061デンカL2 スラリーセリア系CMPスラリー・電子材料部門の一部約3,280億円⚪関連
3405クラレL3 パッド研磨パッド向け素材・ビニロン系樹脂約4,850億円⚪関連
6266タツモL5 周辺CMP周辺装置・スラリー供給システム・薄膜製造装置約540億円⚪関連
6856堀場製作所L5 計測スラリー粒度計測・プロセス分析機器約1.05兆円⚪関連
3445RS TechnologiesL5 ウェハ再生ウェハ・テストウェハ(CMP工程の検査用ウェハ供給)約1,750億円⚪関連

🟢 本命(全8社)

荏原製作所(6361)

何をしている会社か: ポンプ・冷却塔・半導体製造装置を3本柱とする総合機械メーカー。半導体精密事業でCMP装置と排ガス処理装置(ドライ真空ポンプ)を手掛ける。

CMP装置市場で世界シェア推定3割、米Applied Materialsとの実質2社寡占構造を形成する。日本国内ではCMP装置を量産する唯一のメーカーで、3D NAND高層化・HBM多層化・ロジック2nm化のすべての先端プロセスに対応する装置を投入。同社IRは2nm世代に対応する次世代CMP装置の開発にメドをつけたと公表しており、累計出荷台数は3,000台規模に達する。装置販売そのものに加え、装置稼働後のスペアパーツ・メンテナンス・スラリー供給システム(別事業会社のラピダス向け受注実績あり)まで含むリカーリング収益の比重が大きく、半導体ウェハ投入量とCMPステップ数の積に直接比例して収益が積み上がる構造。

東京精密(7729)

何をしている会社か: 半導体製造装置と精密測定機の総合メーカー。半導体事業でウェハ表面検査装置・ダイサ(ウェハ切断装置)・CMP装置を手掛ける。

国内CMP装置の第2勢力として、荏原に次ぐ位置に居る上場プレイヤー。CMP装置に加えウェハ加工後の検査装置・測定装置を一貫で持つため、CMP前後の工程に水平展開しやすい構造を持つ。同社のウェハプローバー・形状測定機はCMP直後の表面粗さ・段差を測定する用途で半導体メーカーに納入されており、装置単体ではなく前後工程と組み合わせたソリューション提案ができる強みがある。CMP装置単独では荏原に大きく劣るが、検査・測定とのバンドル販売で先端ノード半導体メーカーへの食い込みを進めている。

レゾナック・ホールディングス(4004)

何をしている会社か: 旧昭和電工と昭和電工マテリアルズが統合した総合化学メーカー。半導体材料事業でCMPスラリー・パッケージング材料・銅張積層板を持つ。

CMPスラリーで世界シェア2位(金額ベース、2021年実績)、特に独自の微粒子合成技術で開発した「ナノセリアスラリー」等のセリアスラリーは世界トップシェアを持つ(同社IR公表)。セリアスラリーは絶縁膜CMPで研磨傷を低減できる点が評価され、先端ロジック・3D NAND・HBMの全方位で採用が広がる。同社IRは「世界シェアNo.1の半導体材料5製品」を主力に掲げており、CMPスラリーはその柱の一つ。次世代半導体製造に使われる研磨材料の増産投資を進めるなど、CMP需要拡大に直接対応する設備投資を継続している。

富士フイルムホールディングス(4901)

何をしている会社か: 写真フィルム発祥の総合化学・ヘルスケア企業。半導体材料事業で先端ノード向けCMPスラリー・フォトレジスト・洗浄液を供給。

CMPスラリーの中でも先端ロジックの銅配線(銅ダマシン)用CMPスラリーで世界トップシェアを持つ。銅配線CMPは2nm/3nmロジックで配線層数が増えるほどステップ数が膨らむ領域で、TSMC・Samsung・Intel全社の先端工場に採用される地位を確立。同社IRは2030年度にCMPスラリー全体で世界シェアトップを目指し、2024年度比で売上を倍増させる計画を公表している。熊本拠点での先端半導体材料CMPスラリーの生産能力強化など、CMP事業への投資が事業ポートフォリオの中で電子材料部門の主軸の一つに位置付けられている。

フジミインコーポレーテッド(5384)

何をしている会社か: 半導体ウェハ・電子デバイス向け超精密研磨材の専業メーカー。事業の中核がCMP関連の研磨材で、半導体向け売上比率が高い。

シリコンウェハの超平坦加工に使われる高精度研磨材で世界シェアトップを誇る。CMP向けの研磨スラリー全体での世界シェアは約1割だが、FEOL(トランジスタを作る前工程の最下層)向けCMPスラリーでは世界シェア5割強と寡占級のポジションを持つ。FEOL向けは半導体微細化の最先端工程で使われるため、ロジック2nm化・3D NAND高層化のたびに製品要求が厳しくなり、新興プレイヤーが追随困難な技術参入障壁が立つ。半導体専業のため、ロジック/メモリ大手の設備投資サイクルに直接連動する。

ニッタ(5186)

何をしている会社か: 工業用ベルトのリーディングカンパニー。米DuPont(旧Rohm and Haas)と1983年に設立したJV「ニッタ・デュポン」でCMP研磨パッドを手掛ける。

ニッタ・デュポンが**CMP研磨パッドで世界シェア約8割(2018年LINX Consulting調査、79.2%)**の圧倒的寡占を持つ。CMPで最も技術障壁の高い消耗品が研磨パッドで、ポリウレタンの発泡構造・密度・硬度・溝加工パターンが研磨結果を左右する。半導体メーカーがプロセス開発で使うパッドのスペックは数年単位で固定されるため、一度採用されると入れ替えが起きにくいスティッキー(粘着的)な事業構造を持つ。ニッタ単体としては工業用ベルト・産業用ホースが本業だが、CMP研磨パッド事業はJV出資比率を通じて連結に取り込まれており、半導体ウェハ投入量に直接比例して伸びる収益源として確立している。

扶桑化学工業(4368)

何をしている会社か: リンゴ酸・クエン酸を主力とする食品添加物大手だが、半導体・電子材料事業で超高純度コロイダルシリカを手掛ける。

CMPスラリーの主原料となる超高純度コロイダルシリカで世界トップ級の地位を持つ。コロイダルシリカは砥粒として使われるナノメートル単位のシリカ粒子で、粒径分布・純度・粒子形状の制御に極めて高度な技術が要る。同社は超高純度コロイダルシリカの量産化先行のパイオニアとして長年にわたり世界の主要スラリーメーカー(レゾナック・フジミ・富士フイルム・Cabot等)に原料供給する立場にある。CMPスラリーがどのメーカーのものであれ、その原料の多くは扶桑化学経由で供給される「スラリー業界の上流共通インフラ」として機能する。CMPスラリー市場全体の伸びをそのまま受ける構造。

旭ダイヤモンド工業(6140)

何をしている会社か: 工業用ダイヤモンド工具のリーディングカンパニー。ダイヤモンドホイール・ダイヤモンドワイヤ・CMPコンディショナーを手掛ける。

CMPダイヤモンドコンディショナーで世界級プレイヤーとして25年以上の実績を持つ。コンディショナーは研磨パッド表面の目立てに使われる消耗品で、ダイヤ砥粒の粒径・配置・耐久性が研磨パッドの寿命と研磨品質を決める。CMP工程の中で最もニッチかつ技術ノウハウの蓄積が効く領域で、新興メーカーが追随困難。世界市場規模は2024年に約4億ドル、2033年に約5億ドルへの拡大が予測されており(Straits Research)、CMP消耗品市場の中では小規模だが構造的に成長を続ける領域。同社は半導体向けに加え、化合物半導体(SiC・GaN)・人工ダイヤモンド関連でも収益機会を持つ。

🔵 準本命(全4社)

AGC(5201)

何をしている会社か: 板ガラス世界トップ級の総合素材メーカー。半導体・電子材料事業でCMPスラリー・EUVマスクブランクス・フォトマスク基板を手掛ける。

CMPスラリーで原料砥粒からスラリーまで一貫生産できる垂直統合体制を持ち、レゾナック・富士フイルムに次ぐ第3勢力として位置する。連結売上に占めるCMPスラリーの比率は低いが、ガラス事業の事業ポートフォリオ再構築で半導体材料部門への投資比重を上げており、EUVマスクブランクスなど他の半導体材料との組み合わせで先端ノード半導体メーカーへの食い込みを強化中。CMPスラリーが連結業績に効くにはまだ規模が小さいが、ガラス祖業の技術資産(超精密成形・超高純度合成)を半導体材料に転用する構造的優位がある。

富士紡ホールディングス(3104)

何をしている会社か: 繊維事業発祥の総合素材メーカー。化学工業品事業でCMP研磨パッド「POLYPAS」シリーズを手掛ける。

ニッタ・デュポンが世界シェア約8割を握るCMP研磨パッド市場で国産勢として独自開発のポリッシングパッドを持つ。「ワックスレス保持」を特徴とする独自製品で、特定の研磨用途で採用されている。世界シェアではニッタ・デュポンに大きく劣るが、CMP研磨パッドというニッタ・デュポン寡占の領域で国内2社目として存在する希少な上場プレイヤー。CMPパッド需要が世界的に膨らむ局面で、第2/第3サプライヤー化が進めば数量シェア拡大の機会がある。

ノリタケ(5331)

何をしている会社か: 食器発祥の老舗だが、現在は工業用研削砥石・ファインセラミックスを主力とする工業材料メーカー。

ファインセラミックス・砥石技術を活かしてCMP用ダイヤモンドコンディショナーを手掛けるプレイヤー。旭ダイヤモンドが世界級ポジションを持つ領域で、ノリタケは国内第2勢力として存在する。連結売上に占めるCMP関連の比率は限定的だが、研削砥石の祖業技術がそのままCMPコンディショナーに転用される構造で、技術参入障壁の高い領域に長年居続けている。

エア・ウォーター(4088)

何をしている会社か: 大陽日酸とともに国内産業ガス2大手。半導体向けに高純度ガス・スラリー供給システム・特殊化学品を供給。

ラピダスの半導体工場向けにCMPスラリー調合・供給システムを受注した実績を持つ(2024年公表)。CMPスラリーは半導体工場で大量に消費されるため、ウェハ投入量に応じてスラリーをリアルタイムで調合・供給するシステムが必要で、産業ガス事業者の供給インフラ運用ノウハウが転用される領域。連結売上ではCMP関連は小さいが、ラピダス・TSMC熊本など国内新設工場のCMP消耗品サプライチェーンに食い込む位置を確保している。

⚪ 関連(全5社)

デンカ(4061)

何をしている会社か: 総合化学メーカー。電子材料・機能性樹脂・特殊混和材を持ち、電子材料部門でセリア系CMPスラリーを手掛ける。

セリア系CMPスラリーを電子材料部門の一部として手掛けるが、レゾナックのセリアスラリー世界トップに対して規模は小さい。CMP事業比率は連結で限定的で、本業の機能性樹脂・ヘルスケア事業の比重が大きい。CMP需要拡大時の周辺受益銘柄として位置づけられる。

クラレ(3405)

何をしている会社か: ビニロン・PVA(ポリビニルアルコール)で世界トップ級の総合化学メーカー。

CMP研磨パッド向けのビニロン系樹脂など、研磨パッドメーカーへの素材供給に関与する。クラレ自身が研磨パッドを作るわけではなく、ニッタ・デュポン・富士紡など研磨パッドメーカーの上流素材プレイヤーとして関与する。CMP事業比率は連結でごく限定的。

タツモ(6266)

何をしている会社か: 半導体・FPD製造装置の中小型専業メーカー。コータ/デベロッパ・薄膜製造装置を手掛ける。

CMP周辺装置・スラリー供給システム・薄膜製造装置を持ち、CMP前後の工程をサポートする位置にある。連結売上に占めるCMP関連の比率は小さく、メイン事業はFPD・半導体向けコータ/デベロッパ。CMP本流の装置・消耗品メーカーではなく、周辺サポート枠としての関与。

堀場製作所(6856)

何をしている会社か: 自動車計測・環境計測・科学・半導体計測の総合計測器メーカー。半導体プロセス分析機器を持つ。

CMPスラリーの粒度計測・プロセス分析機器を半導体メーカー向けに供給する。CMP本流の装置・消耗品ではなくプロセス管理・品質保証側のニッチ計測プレイヤー。連結売上ではCMP関連は限定的だが、CMPプロセス制御の高度化(2nm世代以降)で粒度・粒径分布の精密管理が必須となるため、構造的な需要は安定。

RS Technologies(3445)

何をしている会社か: 再生シリコンウェハ・プライムシリコンウェハの専業メーカー。CMP工程で削られたテストウェハの再生も手掛ける。

CMP工程の検査・装置調整に使われるテストウェハ(モニタリングウェハ)を供給する。半導体メーカーがCMP装置の動作確認や条件出しで使うウェハは大量に消費されるため、CMP事業活動量に間接連動する。本業は再生ウェハ・プライムウェハ事業で、CMPはあくまで需要側の一部。

CMPは世代更新ごとに必ずステップ数が倍々で増える「半導体製造のリセットボタン」

本命/準本命/関連 — 評価軸の考え方

本記事では3つの軸で銘柄を分類している。①該当階層(装置・スラリー・パッド・コンディショナー・原料・周辺)での世界シェア②連結売上に占めるCMP事業の比率と絶対規模③構造的需要(ウェハ投入量・ステップ数)への直接連動度の3軸である。

世界シェア軸だけで判定すると、本業比率の低い大手化学(レゾナック・富士フイルム・AGC)と専業中小型(フジミ・ニッタ・扶桑化学・旭ダイヤモンド)が同列に並んでしまう。事業比率軸だけで見ると、専業中小型が常に上位に並び、大手化学の絶対規模インパクトを取りこぼす。3軸を組み合わせて、該当階層で世界級+構造的需要への直接連動が確認できる銘柄を本命とし、規模はあるが事業比率が中程度の大手は準本命、関与はあるが規模・比率いずれも限定的な銘柄を関連とする3段階分類が、テーマ株記事の網羅性と精度を両立させる軸として機能する。

投資家が継続観測すべき構造的指標

観測ポイント

需要側=メモリ大手(SK hynix・Samsung・Micron・キオクシア)とロジックファウンドリ(TSMC・Samsung・Intel)の四半期設備投資高、供給側=CMP装置・消耗品メーカーの先端ノード向け売上比率と新工場稼働率。

  • メモリ大手の設備投資動向 — CMP消耗品はメモリ大手のウェハ投入量に直接連動するため、SK hynix・Samsung・Micron・キオクシアの四半期CapExはCMP需要の最大の先行指標
  • 3D NANDの層数推移とHBM世代更新サイクル — 層数が増えるごとに1枚あたりCMPステップ数が増える構造のため、3D NAND 300層→500層・HBM 12Hi→24Hi→36Hiへの世代更新ペースがCMP消耗品需要の構造倍率を決める
  • ロジック先端ノードのウェハ投入量 — TSMC・Samsung・Intelの2nm/3nm工場の量産立ち上げペースと月産ウェハ枚数の推移は、銅配線CMPスラリー(富士フイルム強み領域)・FEOL CMPスラリー(フジミ強み領域)の需要に直接効く
  • 日本国内新設半導体工場の稼働率 — ラピダス・TSMC熊本・キオクシア四日市/北上などの国内新工場稼働がCMP消耗品サプライチェーン国内勢(エア・ウォーター・タツモ・RS Technologies等)の受注に効く

このテーマの構造的リスク

注意

CMP需要は半導体産業全体のサイクル変動を受け、メモリ価格下落・在庫調整局面ではメモリ大手のCapEx削減を通じてCMP消耗品需要が急減するシクリカル性を持つ。装置受注のリードタイムが長いため、メモリ価格下落→CapEx削減→装置受注減→消耗品需要減のラグが半年〜1年程度発生する。

構造的リスクとして、CMP代替技術(無研磨プロセス・ドライプロセス)の登場可能性が常に意識される必要がある。現時点で先端ロジック・3D NAND・HBMのいずれもCMPに依存しているが、デバイス構造の根本変更(例: 完全垂直集積化)が起これば、CMPステップ数の伸びが鈍化する可能性は理論上ある。また、消耗品サプライチェーンは半導体メーカーの内製化圧力(歩留まり向上のため自社配合化)に晒される領域でもあり、技術ノウハウの集中度が高いプレイヤー(ニッタ・デュポン・フジミ・扶桑化学等)ほど内製化リスクが低く、汎用領域に近いプレイヤーほど価格圧力を受けやすい構造がある。

要するに
  • CMPは半導体製造で世代更新ごとに必ずステップ数が倍々で増える「リセットボタン工程」。3D NAND高層化・HBM多層化・ロジック2nm化のすべてが需要倍率を押し上げる構造
  • 本命8社は装置(荏原・東京精密)・スラリー(レゾナック・富士フイルム・フジミ)・パッド(ニッタ)・原料(扶桑化学)・コンディショナー(旭ダイヤモンド)の5階層全てに世界級ポジションを持つ
  • 準本命4社・関連5社は事業比率は中〜小だがCMPサプライチェーンの第2勢力・周辺サポートとして関与
  • 読者が継続観測すべき指標はメモリ大手CapEx・3D NAND層数推移・ロジック先端ノード投入量・国内新工場稼働率の4点

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