この記事の要点
  • 日本の造船シェアは1990年代の世界4割から2024年度12%まで縮小、中国が50%超を握る寡占状態に。一方、米中対立+脱中国サプライチェーン+環境規制+艦艇需要で「国内造船能力の戦略的再構築」が政策テーマ化
  • 政府は造船業再生基金1,200億円(2025年度補正予算)、官民1兆円基金で生産能力倍増日米合意80兆円対米投資に造船能力強化を組み込み、2035年までに建造量倍増の目標を掲げる
  • 本命7社・準本命7社・関連7社の合計21銘柄を「造船所/舶用エンジン/電子機器/電装・配電/ボイラー・環境装置/塗料/厚板」の7階層で網羅。重工三大(三菱重工/川崎重工/IHI)+専業エンジン(三井E&S/ジャパンエンジン)+造船専業(名村造船所)+電子機器世界1位(古野電気)が本命格、舶用配電盤の老舗(寺崎電気)・舶用ボイラー世界トップ(三浦工業)が準本命の柱
📖 はじめに — この記事で出てくる専門用語(クリックで開く)
  • 新造船: 新たに建造する船。中古船売買・修繕とは区別される
  • 建造量: 造船所が年間に作る船舶のトン数(GT=総トン数で計測)
  • 2ストロークエンジン(舶用低速): 大型商船の主機関(メインエンジン)に使われる超大型エンジン。ピストン1往復で1回の燃焼が起きる仕組み
  • 4ストロークエンジン(舶用中速): 中小型船の補機・主機に使われる中型エンジン。発電機・推進補助用途も
  • ライセンサー: エンジン設計の知的財産権を保有し、製造ライセンスを各国造船所に供与する企業。世界の2ストエンジンは2社(MAN ES/WinGD)+日本のジャパンエンジンの計3社のみ
  • LNG船: マイナス162度で液化した天然ガスを運搬する超大型タンカー。建造難度が極めて高く、川崎重工/三菱重工/今治造船(非上場)が主な国内建造所
  • PCC(自動車運搬船)/ローロー船: 自動車・トラックなどを車両のまま積み降ろしできる大型運搬船。日本造船が得意とする領域
  • 船底塗料(防汚塗料): 船底に貝・藻などが付着して燃費悪化するのを防ぐ特殊塗料。中国塗料が世界トップシェア
  • 舶用厚板(造船用鋼板): 船体の構造材として使われる厚さ6mm以上の鋼板。日本製鉄/JFE/神戸製鋼が国内3大供給
  • 艦艇: 自衛隊・海上保安庁向けの軍用艦船(護衛艦/潜水艦/巡視船)。防衛予算拡大で需要急増中
  • SHIPS Act(米): 米国の造船産業再生法案。米国海運の自国造船所利用を促進し、同盟国(日本含む)との造船能力共同構築を推進する内容
  • Jones Act(米): 米国内航路は米国建造・米国籍船のみ運航可能とする1920年制定の法律。「米国造船所だけで足りなければ同盟国造船所も活用」へ運用緩和議論

造船業とは — 産業構造と「中国50%vs日本12%」という現実

結論

世界の造船建造量は中国50%超・韓国30%・日本12%という極端な寡占構造で、日本造船業はピーク時のシェア4割から大幅後退した。このテーマの本質は「コスト競争で失った産業を、安全保障+脱炭素+艦艇需要の三本柱で政策的に再構築する」点にあり、政府の1兆円基金・米SHIPS Act/Jones Act・日米80兆円対米投資が同時に走る稀有な構造的局面が生まれている。

世界造船建造量(2024年)は中国が概ね50%超、韓国が約30%、日本が約12%のシェアで、日本のシェアは1990年代の世界4割から大幅に縮小した。コスト競争で中韓に追いつかれ、国内造船所は統合・閉鎖が相次いだ歴史を持つ。一方でLNG船・LPG船・PCC(自動車運搬船)・大型客船・艦艇など高難度船舶では日本造船所が依然強い競争力を保ち、技術的優位は失われていない。

このテーマの構造的追い風は4つある。第一に、米中対立で米国SHIPS Act・Jones Act緩和により、米国海運の日本造船所活用が政策議論となっている。第二に、日米合意80兆円対米投資に日米造船能力共同構築が組み込まれ、日本造船所の対米受注機会が拡大する。第三に、国際海事機関(IMO)の脱炭素規制でLNG/メタノール/アンモニア燃料船の建造需要が急増し、日本造船の技術優位が再評価される。第四に、防衛予算8.8兆円の艦艇枠で護衛艦・潜水艦・巡視船の発注が構造的に増加する。

造船・舶用エンジン市場の規模感

結論

政府は2025年11月に造船業再生基金の創設を発表、2025年度補正予算に1,200億円を計上、官民1兆円基金で2035年までに建造量を倍増する目標を掲げた。日本造船工業会も同じ目標を共有し、複数年にわたる構造的設備投資の局面に入る。

国土交通省・経済産業省・防衛省の連携で**「造船業再生基金1,200億円」**(2025年度補正予算)が計上され、官民で1兆円規模の基金を組成して国内建造能力を倍増する方針が決定した。日本造船工業会も2035年までに建造量倍増の目標を達成するための巨額設備投資に踏み切る姿勢を明確化している。

12%
日本造船 世界シェア(2024年度・国交省統計)
1,200億円
造船業再生基金(2025年度補正予算)
1兆円
官民基金 生産能力倍増目標
2035
建造量倍増目標年(日本造船工業会)

バリューチェーンの役割分類 — 5階層で稼ぐ

結論

造船関連株は「造船所(L1)→舶用エンジン(L2)→電子機器・通信(L3)→塗料・部品(L4)→厚板・素材(L5)」の5階層で稼ぐ。日本企業はL1(造船所)で中韓に押されたが、L2(舶用エンジン)・L3(電子機器)・L4(塗料)では世界級ニッチトップが存続。投資判断は「どの階層で稼いでいるか」×「政策受益直接度」で行う。

造船関連株は以下のバリューチェーン階層で分類できる。

  • L1 造船所(船体組立・進水): 大型船舶を建造する中核層。重工三大(三菱重工/川崎重工/IHI)・専業大手(三井E&S/名村造船所)・中堅(内海造船/カナデビア)。中韓に押されたが艦艇・LNG・PCCで技術優位は残る
  • L2 舶用エンジン(主機・補機): 商船の心臓部となる超大型エンジン。世界の2ストロークエンジン・ライセンサーはMAN ES/WinGD/ジャパンエンジン(神戸発動機+三菱重工承継)の3社のみで、日本は1社残存。三井E&S(国内シェア71%)・川崎重工・阪神内燃機(小型)が製造の主軸
  • L3 電子機器・通信・航法: 船舶用レーダー・GPS・ソナー・通信機。古野電気が舶用電子機器世界1位で、漁業用ソナーは世界寡占
  • L3.5 電装・配電制御: 船内配電盤・機関監視制御システム・遮断器。寺崎電気産業が舶用配電盤の老舗ニッチトップで海外売上比率52%
  • L3.6 ボイラー・環境装置: 舶用ボイラー・バラスト水処理装置・SOxスクラバー(排ガス浄化)。三浦工業が舶用ボイラー世界トップ+バラスト水処理装置HK、三菱化工機が三菱VOS(バラスト水)世界初型式承認、富士電機がSOxスクラバー世界初サイクロン技術
  • L4 塗料・部品: 船底防汚塗料・推進システム・舶用バルブ。中国塗料が船底塗料で世界トップシェアを保つ
  • L5 厚板・素材: 造船用鋼板。日本製鉄・JFE HD・神戸製鋼の3大製鉄が供給。連結売上に対する造船向け比率は限定的だが、造船需要拡大の波及を受ける

L1+L2を重工大手が垂直統合し(三菱重工/川崎重工)、L1+L2の専業化を進めるのが三井E&Sのモデル。古野電気・中国塗料はL3-L4のニッチトップ単独特化型で、製鉄各社はL5の素材供給で関連的に参画する。

関連銘柄 全21社 一覧

コード銘柄主要事業/役割テーマ受益特徴時価総額(億円)分類
7011三菱重工業大型船舶+艦艇+LNG船(L1+L2)防衛8.8兆円+艦艇プライム+MI LNG(今治造船と合弁)・LNG船建造138,642🟢本命
7012川崎重工業LNG/LPG/水素運搬船+舶用ガスエンジン(L1+L2)大型LNG/LPG/水素運搬船建造実績・舶用ガスエンジン主力23,813🟢本命
7013IHI造船関連設備+艦艇主機関連(L1+L2付随)大型エンジン事業は三井E&Sへ売却済だが、艦艇関連・造船所機械装置で参画27,150🟢本命
7003三井E&S舶用低速2ストエンジン国内シェア71%(L2主力)IHIから大型エンジン事業取得・国内最大の舶用エンジンメーカー4,621🟢本命
6016ジャパンエンジンコーポレーション国産2スト唯一のライセンサー(L2)神戸発動機+三菱重工事業承継・世界に3社しかない2ストライセンサー1社803🟢本命
7014名村造船所中堅造船専業(L1)バルカー/タンカー/PCC建造・上場専業造船で最大級2,698🟢本命
6814古野電気舶用電子機器・漁業用ソナー世界1位(L3)「船の電子機器」世界首位・造船ラッシュで成長軌道1,940🟢本命
4617中国塗料船底防汚塗料世界トップシェア(L4)新造船+メンテで継続収益・脱炭素規制で需要拡大1,547🔵準本命
6302住友重機械工業修繕造船+舶用機器(L1+L4)中型造船・舶用機械・修繕サービス6,329🔵準本命
7004カナデビア旧日立造船・環境機械中心(L1+L4周辺)造船本業は縮小したが舶用関連機器・脱硫装置で参画2,259🔵準本命
6018阪神内燃機工業中小型舶用ディーゼルエンジン(L2)4ストローク中速エンジン・中型船向け補機200🔵準本命
7018内海造船中堅造船・カーフェリー特化(L1)国内航路カーフェリー・RoRo船で独自ポジ167🔵準本命
6637寺崎電気産業舶用配電盤・機関監視制御(L3.5)電力制御の百年企業・海外売上比率約52%・船内電装ニッチトップ422🔵準本命
6005三浦工業舶用ボイラー世界トップ+バラスト水処理装置(L3.6)貫流ボイラー世界シェアトップ・舶用ボイラー50年実績・グローバルメンテ網3,876🔵準本命
5401日本製鉄国内最大製鉄・造船用厚板供給(L5)高張力鋼・LNG船用低温鋼板の主力供給28,744⚪関連
5411JFE HD国内2位製鉄・造船用厚板(L5)高品質厚板で造船向け継続供給10,613⚪関連
5406神戸製鋼所高機能厚板+船体構造材(L5)高張力鋼の差別化供給7,594⚪関連
9301三菱倉庫港湾物流+海事サービス(L1+L3周辺)港湾サービス・国際物流で造船受益(間接)4,941⚪関連
9264ポエック動力・重機等事業に船舶エンジン部品(L2周辺)広島・福山(瀬戸内造船圏)本社・舶用エンジン部品+環境機器+消防機器の小型卸74⚪関連
6331三菱化工機バラスト水処理装置+SOxスクラバー(L3.6)三菱VOS バラスト水処理装置世界初型式承認・三菱オープンループSOxスクラバー825⚪関連
6504富士電機舶用SOxスクラバー(L3.6 一部)船舶向けSOxスクラバー(EGCS)世界初サイクロン技術・複合大企業の舶用環境装置セグメント21,558⚪関連
ランクの定義

🟢 本命: テーマ事業が主力 + 政策助成・艦艇受注の直接受益 + 国内寡占級ポジション
🔵 準本命: テーマで重要な位置 + 専業 or 中型・修繕領域 + 規模/事業比率は中程度
⚪ 関連: テーマに関与あり + 素材・サービス・周辺で参画 + 連結比率は限定

※ ランクは「テーマ事業比率・政策受益直接度・技術優位」で判定。株価騰落とは無関係。

🟢 本命(全7社)

三菱重工業(7011)

何をしている会社か: 戦闘機・護衛艦・潜水艦・大型船舶・宇宙機器を手掛ける国内最大の防衛・重工メーカーで、造船テーマでは**艦艇プライム+LNG船(MI LNG)**の両軸で稼ぐ。

防衛省8.8兆円予算の最大受益銘柄で、護衛艦・潜水艦・巡視船の艦艇プライムとして確実な受注基盤を持つ。LNG船分野では今治造船(非上場)との合弁会社MI LNGを通じて設計・販売を担当、商業大型船舶でも一定の競争力を維持する。複合大企業セグメントでは造船・艦艇は重工事業全体の一部だが、艦艇プライム単独で世界級ポジションを持つため本命格1位に配置。

川崎重工業(7012)

何をしている会社か: LNG/LPG/水素運搬船を建造する液化ガス船の主要ビルダーで、舶用ガスエンジン製造も手掛ける航空・船舶・鉄道車両の重工大手。

LNG船・LPG運搬船で日本国内の主力建造所として実績を積み、水素運搬船(液化水素を運ぶ世界初の専用船)を建造した実績は重工三大の中で独自。舶用ガスエンジン(LNG燃料船向け)で2ストロークと4ストロークの両方を生産する数少ない国内メーカー。日本郵船からのLPG・アンモニア運搬船受注なども継続的に獲得しており、脱炭素新燃料船舶のサプライヤとして本命格。

IHI(7013)

何をしている会社か: 航空エンジン・重工インフラ・原動機・物流機器を手掛ける重工大手で、造船分野では艦艇関連・造船所機械装置・舶用機器で参画する。

大型舶用エンジン事業は2022年に三井E&Sへ売却済で、主機関製造は撤退したが、艦艇関連部品・造船所のクレーン/機械装置・港湾機械で造船テーマに継続参画する。重工三大の中では造船関連の事業比率が比較的小さいが、防衛装備予算受益+造船インフラ機器の継続収益基盤が本命格の根拠。

三井E&S(7003)

何をしている会社か: 大型舶用低速2ストロークエンジン**国内シェア71%(2024年)**を持つ国内最大の舶用エンジンメーカーで、舶用機器を連結売上の半分まで引き上げる経営戦略を取る。

2015年からメタノール・LNG対応の二元燃料エンジンを市場投入、アンモニア・水素エンジンの次世代燃料対応開発も推進する。2022年にIHIから大型船舶エンジン事業を買収し、舶用エンジン国内寡占を強化した。造船所事業は縮小・売却傾向にあるが、舶用エンジン専業として国内圧倒シェアを持つため本命格。脱炭素新燃料船舶の主機関需要拡大が業績の構造的ドライバー。

ジャパンエンジンコーポレーション(6016)

何をしている会社か: 神戸発動機(2017年に三菱重工の舶用エンジン事業を承継)を起源とする、日本唯一の2ストロークエンジン国産ライセンサー

世界の2ストロークエンジン・ライセンサーは欧州MAN Energy Solutions(独)・WinGD(スイス、中国船舶集団傘下)・日本のジャパンエンジンの計3社のみで、日本の舶用エンジン国産化テーマで絶対的に外せない技術的独占ポジ。MAN/WinGDが中国造船所と契約を増やす局面で、ジャパンエンジンは日本造船所のサプライヤとして独自の戦略的位置を占める。時価総額は本命格7社の中で小さいが、テーマ受益の構造的確実性は最高クラス。

名村造船所(7014)

何をしている会社か: バルカー(ばら積み船)・タンカー・PCC(自動車運搬船)を主力建造する中堅造船専業の独立系メーカーで、上場専業造船所では最大級の規模を持つ。

重工三大が複合企業として造船を一部門としているのに対し、名村造船は純粋な造船専業で、テーマ事業比率は実質100%。バルカー・タンカー・PCCといった中型商船で安定収注を獲得しつつ、造船業再生基金・1兆円官民基金の生産能力倍増政策の最大直接受益候補の1社。船種・規模・上場専業性で他に代替しがたい本命格。

古野電気(6814)

何をしている会社か: 船舶用レーダー・GPS・ソナー・通信機器で世界首位のニッチトップメーカーで、漁業用ソナーは世界寡占級。

「船の電子機器」セグメントで世界1位の独自ポジ。商船・漁船・プレジャーボート・自衛艦まで広範な舶用電子機器を展開し、造船ラッシュで建造船の電子機器需要が急増する局面で構造的成長軌道に乗る。L3(電子機器層)単独でも世界級ポジションを持つため、造船テーマで本命格に位置づける。

造船所が中韓に押されても、エンジン・電子機器・塗料のニッチトップは日本に残った

🔵 準本命(全7社)

中国塗料(4617)

何をしている会社か: 船底防汚塗料・ガス物質運搬船向け塗料で世界トップシェアを持つ船舶用塗料の専業メーカーで、新造船+メンテナンス双方で継続収益を生む。

船底に貝・藻・フジツボなどが付着すると船の燃費が10-20%悪化するため、船底防汚塗料は燃費削減・脱炭素規制対応の必需品となる。新造船建造の塗料受注+運航船舶の定期メンテナンス塗料の二重収益構造で、造船ラッシュ局面と環境規制強化の両方を取れる位置。テーマ事業比率はほぼ100%でニッチトップ単独特化型。本命格7社に並ぶ強さがあるが、規模・流動性で準本命位置。

住友重機械工業(6302)

何をしている会社か: 重機械・産業機械・電子機器・建機・船舶を手掛ける総合機械メーカーで、造船分野では中型造船+修繕造船+舶用機械を担う。

重工三大には入らない準大手の重機メーカーだが、中型造船+修繕(ドック)サービス+舶用機械で造船関連事業を継続。修繕需要は新造船建造ラッシュとは別軸で運航船舶の維持で安定的に発生するため、テーマ受益が複線化する位置づけ。重工三大の代替的なポジションで準本命。

カナデビア(7004)

何をしている会社か: 旧日立造船として知られた重工メーカーで、現在は環境装置・産業機械中心だが、船舶用脱硫装置・舶用機器等で造船周辺機器に関与する。

社名変更後は造船本業から大幅に縮小し、ゴミ焼却炉・水処理プラント・舶用機器が主力に。造船テーマでは本命格の重工大手ではなく舶用機器・脱硫装置を通じた間接受益として準本命に位置づける。脱炭素規制で船舶用脱硫装置・SOx規制装置の需要があり、造船テーマの波及を受ける。

阪神内燃機工業(6018)

何をしている会社か: 中小型船向け4ストロークディーゼル機関の専業メーカーで、漁船・内航船・補機関用の中速エンジンが主力。

ジャパンエンジン・三井E&Sの大型2ストとは別領域の中型・小型船向け4ストを担う。商船3メガが扱わない中小船・特殊船(漁船・内航コンテナ・タグボート)向けの主機/補機需要を取り込む独自ポジション。時価総額は本命格7社より一桁小さいが、専業性の高さで準本命扱い。

内海造船(7018)

何をしている会社か: 国内航路向けカーフェリー・RoRo船(車両航送船)を中心に建造する中堅造船所で、瀬戸内エリアでの中型船建造に特化する。

商船3社向けの大型外航船ではなく、国内航路向け中型船・カーフェリー・特殊船で独自市場を抑える位置。造船テーマの中で「内航・国内市場向け」の専業として独自ポジションを持つ。時価総額は167億円と小型だが、内航・カーフェリー需要の維持で安定的に受注を獲得する構造。

寺崎電気産業(6637)

何をしている会社か: 「電力制御の百年企業」と呼ばれる老舗電装メーカーで、船舶向け配電制御システム・機関監視制御システム・集合始動器盤・低圧遮断器を主力に展開する。

船内の電気を統合管理する配電盤・モニタリング装置で舶用電装のニッチトップ。商船・客船・自衛艦・コンテナ船まで広範な船種で採用され、海外売上比率は約52%(国内4子会社+海外8子会社の連結体制)。古野電気がL3(電子機器・航法)を抑えるのに対し、寺崎電気はL3.5(電装・配電制御)を独立階層として独占する位置。新造船建造+運航中船舶のメンテナンス需要の両軸で安定収益を生み、造船ラッシュ局面で構造的に受益する。

三浦工業(6005)

何をしている会社か: 産業用ボイラーの国内最大手で、舶用ボイラー世界トップシェア+バラスト水処理装置HKで海事領域のグローバルニッチトップを抑える。

産業用貫流ボイラーで世界シェアトップ、舶用ボイラーは50年以上の実績で世界各国の船舶に採用される。さらにバラスト水処理装置HK(フィルタ+UV照射方式)はアムステルダム・シンガポール・舟山等にメンテ拠点を持つグローバル展開を実現。IMO(国際海事機関)のバラスト水管理条約により外航船全船にバラスト水処理装置の搭載義務が課せられているため、三浦工業の装置は新造船+既存船改造の両方で構造的需要を持つ。本業の産業用ボイラー+舶用ボイラー+環境装置の3層構成で、テーマ受益度は本命格に近いが規模・専業度で準本命位置。

⚪ 関連(全7社)

日本製鉄(5401)

何をしている会社か: 国内最大の製鉄メーカーで、造船向けには高張力鋼(HT鋼)・LNG船用低温鋼板等の高機能厚板を供給する。

連結売上に対する造船向け厚板比率は限定的だが、LNG船用低温鋼板は技術的に難度が高く一部材は事実上の独占供給ポジ。鉄鋼本業の構造改革が進む中で、造船需要の構造的拡大が中期的な業績下支え要因となる。

JFE HD(5411)

何をしている会社か: 国内2位の鉄鋼メーカー(日本製鉄に次ぐ)で、造船向けには高品質厚板・大型構造材を供給する。

日本製鉄と並ぶ国内造船所への厚板主要サプライヤーで、ガス運搬船用・タンカー用の特殊鋼板を供給。テーマ事業比率は連結ベースでは限定的だが、造船需要拡大の波及を直接受ける位置。

神戸製鋼所(5406)

何をしている会社か: 鉄鋼・アルミ・建機・機械を手掛ける総合素材メーカーで、造船向けには高張力鋼・船体構造材を供給する。

日本製鉄・JFE HDよりは規模で劣るが、特殊鋼・耐熱鋼の差別化供給で造船・舶用分野でニッチな位置を取る。テーマ受益度は厚板2社よりやや限定的だが、専門領域の供給で関連枠に入る。

三菱倉庫(9301)

何をしている会社か: 国内最大級の港湾物流・倉庫業者で、海事サービス・国際物流・港湾ターミナル運営を通じて造船・海運の周辺に位置する。

直接的な造船関連事業はないが、港湾物流・海事サービスは造船・海運市場の拡大に連動して需要が増える。三菱グループ内では三菱重工(造船)と並んで海事関連の波及を受けるサービス層のプレイヤーとして関連枠に位置づけ。

ポエック(9264)

何をしている会社か: 広島県福山市に本社を置く卸売業者で、「動力・重機等事業」セグメントで船舶エンジン部品を扱い、瀬戸内造船産業圏のニッチサプライヤーとして機能する。

連結事業は環境・エネルギー機器(ポンプ・水処理)+動力・重機等事業(船舶エンジン部品・プラント設備)+防災・安全機器(消火・消防)の3セグメント構成。造船テーマでは「船舶エンジン部品」の卸売・付帯サービスを通じて参画。瀬戸内地域は今治造船(非上場)・常石造船(非上場)・川崎重工(神戸/坂出)等の造船所が集積するエリアで、地場の小型サプライヤーとして波及を受ける。時価総額は本記事の中で最小規模だが、造船テーマの裾野まで網羅する観点から関連枠で記録する。

三菱化工機(6331)

何をしている会社か: 三菱グループの化学装置・産業機械メーカーで、バラスト水処理装置「三菱VOS」(世界初の型式承認取得)+三菱オープンループSOxスクラバーを主力に海事環境装置を展開する。

「三菱-VOSシステム」は150m³/hr の一般貨物船から6,800m³/hr 処理の大型タンカーまで搭載実績を持ち、IMO型式承認を世界で初めて取得した装置として実績を積む。三菱重工との共同開発・三菱グループ内連携でSOxスクラバーも国内メーカー初のパナマSCHEM-B承認取得。三浦工業と並ぶ海事環境装置の主要プレイヤーで、規模は三浦工業より小型だが世界初型式承認の技術優位で関連枠の確実なポジションを持つ。

富士電機(6504)

何をしている会社か: 産業用電力機器・電子部品・自動販売機・空調機を手掛ける総合電機メーカーで、舶用領域ではSOxスクラバー(EGCS)世界初のサイクロン技術を持つ。

舶用排ガス浄化システム「SaveBlue」シリーズで、世界で初めて船舶向けSOxスクラバーにサイクロン技術を採用し、コンパクトサイズで配置検討が容易な独自技術を確立。富士電機の連結売上は2兆円超で舶用環境装置の事業比率は限定的だが、Step 2-B-3.5「複合大企業セグメント確認」ルールに基づき世界級ポジションを持つセグメントを抱える複合大企業として関連枠に位置づける。

本命/準本命/関連 — 評価軸の考え方

このテーマでは**「テーマ事業比率 × 政策受益直接度 × 技術優位(国内寡占級)」**の3軸で本命・準本命・関連を分けた。

「テーマ事業比率」は連結売上に占める造船・舶用関連の割合。専業(名村造船所/ジャパンエンジン/古野電気/中国塗料)は実質100%、複合企業(三菱重工/川崎重工/IHI)は数%でも特定セグメントが世界級なら本命検討する(連結比率より絶対規模・世界ポジションを評価)。「政策受益直接度」は造船業再生基金1,200億円・官民1兆円基金・防衛艦艇予算の直接受益度。「技術優位」は世界2スト・LNG船・舶用電子機器・船底塗料などのニッチトップポジションの有無を測る。

3軸のうち2軸以上で上位なら本命、1軸で強いなら準本命、いずれも限定的だが関与あれば関連という配置にした。なお株価騰落・PER・PBR等の財務指標は本ランクに含めない。

投資家が継続観測すべき構造的指標

観測ポイント

需要側=世界造船建造量・日本シェア推移・LNG船需給バランス・防衛艦艇発注額・米SHIPS Act/Jones Act進展。供給側=国内造船所の受注残・舶用エンジン国内シェア推移・古野電気/中国塗料の世界シェア・1兆円官民基金の執行率。

  • 日本造船工業会の建造量年次推移 — 2024年度12%から2035年目標倍増までのトラジェクトリ
  • 造船業再生基金1,200億円の執行率 — 政策が口先か実弾投入かを測る
  • 各造船所の受注残(月数) — 名村造船所・三菱重工・川崎重工の手持ち工事量
  • 防衛省艦艇予算の年次推移 — 護衛艦・潜水艦・巡視船の発注金額
  • 米SHIPS Act・Jones Act緩和議論の進展 — 米国海運の日本造船所活用度
  • 三井E&S舶用エンジン国内シェア推移 — 71%水準維持・拡大
  • 古野電気/中国塗料の世界シェア — ニッチトップ単独特化型の競争力

このテーマの構造的リスク

注意

中国造船所のコスト競争力は依然圧倒的で、商船分野では日本造船が単純コスト勝負に勝てる構造ではない。1兆円官民基金は2035年までの長期計画で短期業績への寄与は限定的、政策助成の執行が遅れると本命格の収益期待が下方修正されるリスクがある。米SHIPS Act・Jones Act緩和議論は不確実で、議会通過しなければ対米受注機会は拡大しない。

中国造船所の人件費・規模優位は依然として圧倒的で、コスト勝負の汎用商船ではこの構造を覆すことは困難。日本造船の優位はLNG船・PCC・艦艇・小ロット特殊船等の高難度船種に集中しており、これらが構造的に伸びる前提が崩れると本命格の収益は伸び悩む。1兆円官民基金は2035年までの長期計画で、設備投資の効果が業績に反映されるまで複数年のラグがある点も注意。LNG需要は脱炭素長期トレンドで強いが、化石燃料からの本格代替(完全水素・アンモニアシフト)が進めばLNG船需要も中期的に頭打ちになる構造的論点を含む。

要するに
  • 日本造船は世界シェア40%→12%まで縮小したが、安全保障+脱炭素+艦艇需要+米中対立の四本柱で復活機運。政府は造船業再生基金1,200億円・官民1兆円基金・2035年建造量倍増を打ち出した
  • 本命7社(三菱重工/川崎重工/IHI/三井E&S/ジャパンエンジン/名村造船所/古野電気)は造船所・舶用エンジン・電子機器のいずれかで国内寡占級ポジション
  • 準本命7社(中国塗料/住友重機械/カナデビア/阪神内燃機/内海造船/寺崎電気/三浦工業)は塗料・修繕・電装・舶用ボイラーで参画、関連7社(日本製鉄/JFE/神戸製鋼/三菱倉庫/ポエック/三菱化工機/富士電機)は厚板素材・港湾サービス・バラスト水/SOx環境装置で間接受益
  • 継続観測すべきは日本造船シェア推移・1兆円基金の執行率・各造船所の受注残・舶用エンジン国内シェア・米SHIPS Act/Jones Act進展

※ 関連記事: 防衛エレクトロニクス関連株資源ナショナリズム関連株ドローン関連株